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島崎七生人しまざきなおと

開発者直撃インタビュー 狙いはドライバーズカー、気がついたらFCV(燃料電池車)だった「トヨタMIRAI」編

狙いはドライバーズカー、気がついたらFCV(燃料電池車)だった「トヨタMIRAI」編
狙いはドライバーズカー、気がついたらFCV(燃料電池車)だった「トヨタMIRAI」編

その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第13回は水素を使った燃料電池車(FCV)のトヨタMIRAIです。いかにも未来感のあった初代に比べて、グッと普通になった二代目 について、トヨタ自動車 Mid-size Vehicle Company MS製品企画ZFチーフエンジニアの田中義和(たなか・よしかず)さんに話を伺いました。

初代は出す側の “力み”があった

初代は出す側の “力み”があった

田中チーフエンジニア

島崎:田中さんには、初代プリウスPHVや初代 の頃から何度も試乗会場のテントの下などでお話を伺ってきました。今回はオンラインで貴重なお時間がいただけましたので、気になる新型ミライのあれこれのお話をお聞かせください。

田中チーフエンジニア(以下CE):はい、よろしくお願いします。

島崎:早速、試乗車に乗った感想なのですが、すごくステキなクルマですね。

田中CE:あ、ありがとうございます。

島崎:印象的なのは、とにかく走りが快適なセダンだなということ。振動や騒音が少ないのは当然ですが、乗り味が気持ちいいですね。それと僕はデザインにも興味を持ったのですが、先代に対してという意味も込めて新型はとてもステキです。資料を拝見していますと、新型はFCVである前に、気持ちよく走らせられるクルマであることを意識されたということですね。

田中CE:はい。まさに仰っていただいたように、クルマ好きの方にスタイルをはじめ、ハンドリング、乗り心地、静粛性などすべてにおいてご評価いただいて選んでいただきたい……そんな思いがまずありました。初代は“FCV感”を売りにしていたところがどうしてもあって、今思えば、“こんな希少な技術で、こんな世界にないものを出すのはスゴイだろう”という出す側の力みがあったのかな、と。でもお客様からすると「FCVといわれても何かよくわからない」「水だけ出すのは何がいいの?」「水素は危なくないのか?」「何かメリットがあるのか?」「ステーションはどこにあるのか?」と。極端な声を例に挙げましたが、浸透していなかった中で“FC”がネガティブなポイントになっていた気がします。

島崎:そうでしたか。

クルマ本来の魅力で選んでもらいたい

クルマ本来の魅力で選んでもらいたい1

田中CE:もちろん最終的には水素社会の可能性はいいたいことですが、そこをいうためには、やはりクルマ本来の魅力で選んでいただけるようにしないとその役割が果たせないんじゃないかなと考えました。ですので、走りのよさを打ち出し、そういうクルマの作り方にしようと今回は考えました。

島崎:先代はスタイルも含めて、コンセプチュアルなクルマでしたね。資料にありましたが新型は、いいクルマだねと走らせていてふと気がついたらFCVだった、そんなクルマにしたというお話がありましたが、実際に走らせてみると、まさにそんなクルマとの一体感を感じますね。決して理屈っぽいクルマではないと思いました。

クルマ本来の魅力で選んでもらいたい2

田中CE:ありがとうございます。先代はドラポジもセダンとしては高かったり、低重心で前輪駆動でしたがアンダーステアも出にくく乗り心地もいいよ……そんなお声もいただいていました。が、やはり“機能をデザインしました”といったいい方だったり、やはりFCであることに我々の気持ちがあった気がします。

クルマ本来の魅力で選んでもらいたい3

新型は前席下につま先を入れることができる

島崎:当然、先代も当時の最新、最善、最高の技術で作られたクルマだったでしょうけれど、例えば後席に座るとつま先が前席の下につかえるように当たったりと、つらいなあと感じることがありました。

田中CE:そうなんです。そこはすごく反省したところでした。

大きなタイヤは水素タンクの径を大きくしたかったから

大きなタイヤは水素タンクの径を大きくしたかったから1

島崎:ガソリン車ですとFF化でメカニカルコンポーネントをクルマの前にまとめて居住性を確保しますが、新型ミライではFCスタックを前席下から前に移して、FRにしながら、居住性も良くしたということなんですね。

田中CE:そこはクルマのプロポーションを含めて抜本的に改善しました。加えて乗り心地や操縦安定性もさらに良くしようと、モーター、FCスタックの置き場所はプラットフォームごとにレイアウトを考え、いろいろな組み合わせの中で決めました。FCの場合、モーターは配線でつなげられればいいとして、問題はタンクをどこに置くか。パッケージングを邪魔せずに、いかにたくさんの水素を積むかが一番のポイントです。クルマ自体はクラウンのクラスですが、実はGA-Lプラットフォームを使い、これはレクサスLSと一緒です。そうなった理由は従来+74mmの大径タイヤが履けるプラットフォームだったからで、2次的には大径タイヤがかっこいいというのがありましたが、1次的には水素タンクの径を少しでも大きくしたかったので、床下の余裕がとれ、トランク容量も大きくできたということがあります。

大きなタイヤは水素タンクの径を大きくしたかったから2

島崎:20インチタイヤは、かっこいいという理由だけではなかった?

田中CE:はい、申し上げたことが真実です。

トヨタ車としての乗り味のフェーズも新しい

トヨタ車としての乗り味のフェーズも新しい

島崎:19インチの試乗車は未試乗で、興味をもっているところですが……。

田中CE:20インチでもそこそこ、いやそれ以上に乗り心地は良いかなと思っています。ロードノイズもそうですが、20インチでも差がわからないくらいで、今回の20インチは路面から入力が入っても収まり感が非常にいい仕上がりになっています。

島崎:20インチでもゴツゴツせず、乗り心地はいいと思いました。

田中CE:その意味でいうと、タイヤのおかげもありますが、基本的なサスペンションのポテンシャルの高さもあります。それとクルマの振動、乗り心地でいうと、エンジンマウントや路面からの入力の共振をコントロールするのがポイントですが、FCの場合はアイドル振動はありません。そこでパワーユニットは硬いマウントにして、サスペンションは純粋に乗り心地から特性が決められます。新型ミライでは新摺動のアブソーバーを使うなどしており、素性がよくできました。高剛性のボディを使い、サスペンションにフルに仕事をさせられている点も寄与しています。

島崎:FCVという以前に、トヨタ車としての乗り のフェーズも新しいと感じました。

田中CE:TNGA GA-LプラットフォームのポテンシャルをFCを搭載することでフルに引き出していて、ブレースを追加してリアの剛性も上げるなど、かなりこだわりました。乗り心地を良くする“狙い値”や、ロードノイズへの取り組み、ドッシリ感の演出などは、その道のスペシャリストである操安の匠とかなり議論しながら作り上げました。

水素はものの3分で充填できるところが大きい

水素はものの3分で充填できるところが大きい

島崎:話が前後しますが、水素タンクは先代の2個から3個に増やして、搭載位置も変わっていますが、タンク自体は新規ですか?

田中CE:すべて新規です。搭載位置を変える必然性もありましたが、新型のタンクは量産に対応するよう作り方を変えて、生産能力は10倍ぐらいに引き上げています。

島崎:タンクの構造も違うのですか?

田中CE:基本構造は一緒で、樹脂のライナーにカーボンリボンを巻き、その上にグラスファイバーを巻いています。が、カーボンの素材や巻き方を変えて、従来と同等の強度でより軽く、よりコストが抑えられたタンクを生産技術とセットで開発しました。

島崎:1万1,000台(注・初代の生産台数)どころか、もっといけるということですね。

田中CE:理屈上は年間3万台規模のポテンシャルがあります。

島崎:そういえば試乗中に改めて感じたのは、EVですと、どうしても電気の残量を気にしながら走らせる感覚ですが、ミライはそれに較べ、ゆったりとした気分で走らせていられますね。

田中CE:精神的な安定感ということですか。

島崎:ええ、いつも精神的な安定感を求めて暮らしているせいもありますけど……。

田中CE:どれくらい走れるのかという絶対距離の話もありますが、ステーションがあればFCはものの3分で充填できるところが大きいと思います。

各種補助金を活用すればベースグレードの価格は500万円を切る見込み

各種補助金を活用すればベースグレードの価格は500万円を切る見込み

島崎:気になってグーグルマップで最寄りのステーションを調べてみたところ、自宅から3.7kmのところに見つけました。

田中CE:おっ。急にセールスマンになりますと、今回のクルマはスターティングプライスが710万円ですが、フード下にFCでは必ずしもマストではないDC給電の給電口をつけており、DC/ACコンバーターにつなげばマックス9kWhまで出せます。災害時などに使っていただく想定で標準で付けたのですが、これによりCEV補助金に上乗せを出していただけそうです。補助金についてはまだ確定していないのですが、仮に東京都内で登録して使用する場合には、政府から昨年12月21日に発表されたCEV補助金と都の助成金を前提とし、優遇税制も含めると約220万円の優遇額となる見込みです。そうすると500万円を切る価格で新型ミライをお買い求めいただけます。

(*編集部注:補助金・助成金の金額については2021年2月17日現在の情報を基にした見込み金額です。また自治体の助成金は購入エリアによって異なります。正確な金額については購入する販売店、経済産業省、自治体などの情報をご確認ください)

島崎:そうですかぁ、では1台ください……と即答できる身分になりたかったです。

田中CE:島崎さんはいろいろなクルマにお乗りになる必要がおありでしょうから、もしご近所の方で「FCはどうなの?」と聞かれたときには、お感じになられたままをお伝えいただければ……。

官庁用にレースのシートカバーは用意するが

官庁用にレースのシートカバーは用意するが

島崎:承知いたしました。ところでアウトレットはフードの中なのですね。

田中CE:はい。雨が入ってもまったく問題ありませんし、ガソリンの給油口のようにリッドを作ると見切り線が増えてしまう。初代にもアウトレットは付けていましたが実はあまり使われていなくて、今回はオプションにすることも考えました。が、あの場所でしたら高圧配線を取り回す必要もなく、その分のお客様の負担もありません。そこでクルマの世の中の役に立つものにしたいという強い思いから給電口はつけました。

島崎:ステキなお考えだと思います。そういえばカタログを見ていたところ、オプションでレースのシートカバーがありましたが、やはり新型も法人ユースの想定は大きなものだったのですか?

田中CE:水素の黎明期においては公的企業様や官庁にもお乗りいただきます。たためる前席のヘッドレストの設定など、後席の使用性を高めた“エグゼクティブ・パッケージ”はそういう意味合いです。そうしたニーズのときにレースのハーフカバーがいいのではないかと、おそらく営業が販売店と相談してご用意したものだと思います。新型ミライの狙いはドライバーズカーです。

走れば走るほど空気をキレイにする

走れば走るほど空気をキレイにする

島崎:マイナスエミッションを体現する“エアピュリフィケーション”も、このクルマらしい装備ですね。

田中CE:もともとFCは空気中の酸素を取り込むためにフィルタリングしています。その際、高性能なケミカルフィルターと併用し、PM2.5なら99%以上、光化学スモッグなどの原因物質も吸い取ります。その結果、世の中の大気からすればほんの一部ですが、走れば走るほど空気をキレイにすることが、水素を使うという環境意識とともにお客様の満足につながるのではないかと考え、表示も含め、実は企画の初期からあったこだわりのひとつでした。

島崎:それと、止まっているとクルマの後ろから、冬の朝の仕込み中の豆腐屋さんの店先の側溝から立ち上る湯気のように、水が水蒸気になって排出されるのですね。

田中CE:外気温や使用状態にもよりますが、停車していると、冬なら凍結防止のために内部に貯まった水を掃気して排出しています。

島崎:注文書にサインできず申し訳ありませんが、気に入りましたので、せめて試乗車はまたお借りしたいと思います。いろいろなお話をどうもありがとうございました。

(写真:島崎七生人、トヨタ自動車)

※記事の内容は2021年3月時点の情報で制作しています。

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