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モータージャーナリスト
島崎七生人しまざきなおと

開発者インタビュー 早々に決めていた全車e-POWER化で得たものは多い「日産ノート」編

早々に決めていた全車e-POWER化で得たものは多い「日産ノート」編
早々に決めていた全車e-POWER化で得たものは多い「日産ノート」編

その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第15回は先代モデルから一新されたスタイリッシュな外観と上質な内装、そして日産ご自慢のハイブリッド「e-POWER」にパワーユニットを一本化したことで話題を集める新型日産ノートです。日産自動車第一製品開発部第二プロジェクト統括グループ車両開発主管の渡邊 明規雄(わたなべ・あきお)さんにリモートで話を伺いました。

ノートは先代e-POWERの開発取りまとめから担当

ノートは先代e-POWERの開発取りまとめから担当

島崎:リモートでお話を伺います。ハウリングなど起こしていませんか? こちらの声は届いていますか?

渡邊主管:大丈夫です。聞こえています。あまり準備をしておらず的を射たお答えができるかどうかわかりませんが、よろしくお願いします。

島崎:ご多忙なところを恐縮です。こちらこそ台本の用意はありませんので、カジュアルなインタビューですがどうぞお付き合いください。

渡邊主管:はい、わかりました。

島崎:改めて、渡邊さんはこれまでたくさんの車種をみてこられましたよね。

渡邊主管:もともとは操縦安定性、乗り心地の性能開発が専門で、T31エクストレイル、デュアリスをやりました。ほかにラフェスタなどもあり、この領域は15年くらい。車種は多く、リーフや北米のセントラ、マーチ、パトロールもやりました。今の車両開発責任の立場は2018年からです。

島崎:操縦安定性の領域では、どういうお立場だったのですか?

渡邊主管:日産の開発体制には“性能計画”という部署がありまして、タイヤ、サスペンション、ステアリング、ボディなど、当然いろいろな部品がからんできます。それらがひとつのシステムとして操縦安定性、乗り心地を作るのですが、性能計画というのは、ある目標から、それぞれのコンポーネントに対して「どういう特性で」と指示を伝えシステム設計をする、そういう仕事でした。

島崎:ヘルベルト・フォン・カラヤンのようなお立場ですね。

渡邊主管:まさに操縦安定性、乗り心地のひとつの解を指揮する立場です。体制でいうと、同じように衝突性能、NVHなどの指揮者が何名もいて、ひとつのクルマを作っています。

島崎:先ほど挙がった車名で、デュアリスは走りもスタイルも欧州風で僕も好きなクルマでした。反対にラフェスタは少し足が締まりすぎだったかな、と。ティーダとかも懐かしいですね。

渡邊主管:そうですね。

島崎:いずれにしても幅広いご担当だったんですね。

渡邊主管:長かったので、いろいろな車種を見させてもらってきました。

島崎:ノートは先代から関わっていらしたのですね?

渡邊主管:先代ノートのe-POWERが2016年に出たのですが、その時から開発をとりまとめる立場でした。

ノートは横綱でなければならない

ノートは横綱でなければならない

島崎:そこで新型ノートですが、どんな特徴があるのか、どこが一番の売りのクルマなのか改めて教えていただけますか。

渡邊主管:ノートは今回で3世代目ですが、もともと実用性が非常に高く、4人がしっかり乗れる広さ、燃費、コンパクトボディの使い勝手のよさで高い競争力をもっていました。加えてe-POWERの投入以降、ありがたいことにコンパクトカー3年連続ナンバー1にもなり、そこから“走り”にもご注目いただけた。そんな経緯の中で、3世代目はノートのもつDNAをベースに、e-POWERの走りをワンランク押し上げて快適で楽しい走りを提供したい、それと内・外装の質感、特にインテリアは第2世代が2012年登場とだいぶ古かったこともありほめられた質感ではなかったので、そこは飛躍的に高めたい。それと電動化、知能化を進めている中で、“知能”にあたる先進運転技術も注力した価値のひとつ。走り、質感、先進技術の3つで、より多くのお客様にワクワクするクルマ生活、所有する喜び、満足感を感じていただきたい、そんな思いで開発しました。

島崎:先代のe-POWERの大成功のあとでプレッシャーはありましたか? ベテランの渡邊さんでも眠れない夜が続いたとか、ありましたか?

渡邊主管:それはもう苦労したところはいっぱいいっぱいありました。一般的な開発でよくやるのは、目標の車種を置いて価格など考えながら作り込んでいくスタイル。ですが今回は、ひとつはノートは横綱でなければならないということ、もうひとつはヤリス、フィットがモデルチェンジを控えていて現物での比較がずっとできなかったので、我々はどこまでやればいいのか、まわりを寄せ付けない性能をどう実現すればいいのか、そこはかなり悩みました。チャレンジとしては楽しみでもありましたが。

2017年に決まっていたe-POWERー本化

2017年に決まっていたe-POWERー本化 1

島崎:ほほう。新型はe-POWERの1本ですが、それは力を集中させる狙いだったのですか?

渡邊主管:そうですね。実は2017年にはe-POWER、1本は決まっていました。

島崎:そうでしたか!

渡邊主管:2016年12月にe-POWERは出ています。で、2017年の暮れにはもう、3代目はe-POWERの1本で行く決断をしていました。わずか1年でこの判断は凄かったなと思いますし、結果としてその後の3年連続ナンバー1がサポートしてくれましたが、お客様からのポジティブな反響は大きく、我々も自信をもって挑めたのだと思います。

島崎:なるほど。

2017年に決まっていたe-POWERー本化 2

渡邊主管:クルマづくりの上でも大きくて、ガソリン車がない分、価格競争に引っ張られない。インテリアの大型アームレストや電制シフト、一体型ディスプレイなども加飾ではなくベースの骨格系に盛り込めたからこそやれました。日本のコンパクト系のハイブリッドで勝負をすると決め、そこにリソースを集中できた。なので、やりやすかったとはいえます。

島崎:この時代の流れが速い中で、よく読めましたね。

渡邊主管:2017年の時点で実はe-POWER比率が6割を超え最後は7割ぐらいまで伸びていた。なので販売構成上、主流になるという予想はできました。一本化は自然な流れだと考えています。

島崎:フリート、レンタカーといった需要にはマーチや、今や性能も価格もガソリンのコンパクトに近い軽自動車があるということですね。ノートe-POWERはそのひとつ上のステージで相撲をとるという意味ですね。

渡邊主管:そうです。

2017年に決まっていたe-POWERー本化 3

島崎:ちなみに新型は先代に対して、車両コンセプト自体はガラッと変えたのでしょうか?

渡邊主管:実用性の高さはDNAとして捨てられない。4人がしっかり乗れて、取り回し、使い勝手も損なわず、その上でe-POWERの走りを磨き上げました。それと2代目では、e-POWERのパワートレイン自体は先進的だけれど、クルマ全体でなかなか先進性が伝わってこないという声がありました。なので、コンセプトチェンジではなく、新しい電動化の時代に合ったクルマとして、内装も外装も、先進性、上質さの価値観をより高めたクルマとして作り込みました。e-POWER専用に舵をグッと切れたということです。

島崎:まさに今回のモデルチェンジの機を捉えた進化ということですね。確かに、先日広報車に乗りましたが、内装の質感レベルの高さはスカイラインなど上級車にも遜色ないなぁと感じました。

渡邊主管:ありがとうございます。

ライバルに合わせサイズダウンしたが、室内空間は大人4人が寛げる

ライバルに合わせサイズダウンしたが、室内空間は大人4人が寛げる1

島崎:ボディサイズの変更の意図は何でしょうか?

渡邊主管:変化として大きいのは全長を直前の先代より85mm短縮したことです。これは賛否両論あるかもしれませんが、実は従来型は一部から、ヤリス、フィットの4mを切った全長に対して「見た目に大きく感じる」との声がありました。そこで最小回転半径は今回4.9mとクラストップとし、サイドビューもより凝縮感のあるものにして、かつ大人4人が十分に寛いで乗れるスペースは確保した、ということです。

ライバルに合わせサイズダウンしたが、室内空間は大人4人が寛げる2

島崎:確かに僕の試乗メモにも足元、頭上は“十分”と書いてあります。それと“後席座面高さも十分、相対的に床が低い”ともメモしてありますが、高さ方向など、パッケージング上の工夫はありますか?

渡邊主管:とくにひざまわりについて、前席シートバック部分の形状を前方に引き込んでスペースを確保しました。それと上半身の寛ぎをお求めの方のためにリクライニングの角度も確保しました。全長は2代目に対しスタイリッシュに見せるために全高を25mm下げましたが、後席の座面高さも下げて、フロアも下げました。

ライバルに合わせサイズダウンしたが、室内空間は大人4人が寛げる3

島崎:確かにゆったりしていて、上質感も十分ですから、この感じでかつての初代ティーダ・ラティオのようなコンパクトセダンもあったらいいなあと思います。

渡邊主管:コンパクトカーという制約がいろいろある中での物づくりには、いろいろと難しいところもあります。磨けば磨くほど、細かな部分の作り込みの善し悪しが逆に目立ってくるものです。

「高品質活動」が生み出したドアの閉まり音、スイッチのフィーリング、ドアハンドルのスムースさ

「高品質活動」が生み出したドアの閉まり音、スイッチのフィーリング、ドアハンドルのスムースさ

島崎:バックドアを閉めるときに手をかける部分の内側の形状は、手が安定してかけやすくていいですね。それと後から資料を拝見して知ったのですが、フロントドアの“閉まり音”がいいなと思ったら、ドアラッチの部品が空洞のある変わったものになっているのですね。

渡邊主管:はい。ストライカーに当たる部分にダンピング機能を働かせて、ドアを閉めたときの高周波の成分をなくすことで、ラッチとストライカーの衝突音の回避をしています。最近発売になった北米のローグでも採用しているパーツです。それにしてもよく見つけてくださいましたね。

島崎:音が静かだなと思い、ピントが合いにくくなった遠近両用メガネを外して、目を凝らして見つけました。

渡邊主管:音でいいますと、我々は高品質活動のようなことをずっとやってきており、スイッチのフィーリング、ウインカーレバーの設えなど、ちょっとした操作で感じる質感を引き上げたりしてきました。ドアのプルハンドルも、外側も内側も手がスムースに運べ、安定して握れて力もかけやすい形状をスタディして決めています。細かくて地道ですけど。

島崎:いやいや、島崎も得意分野です。オーディオアンプのボリュームダイヤルも無垢の金属か樹脂かで操作感、高級感がまったく違ったり、とかします。

バンダイナムコと共同開発した「情報提示音」は専用スピーカーから

バンダイナムコと共同開発した「情報提示音」は専用スピーカーから

渡邊主管:同様に、今回は“情報提示音”といってシートベルト閉め忘れとか、ライト消し忘れなどを伝える音についても、このノートから質感アップのアイテムのひとつとして新たに採用しました。サウンドクリエーターのバンダイナムコと日産の共同開発です。今のクルマは運転支援技術がついていることもあって、いろいろな音が出てくるので、どれが重要でどれが緊急かわからなくなってきた。それらを体系的に整理したかったのと、音自体も質感のあるものにしようよ、そんな取組みです。

島崎:クルマをスタートさせると、ETCカードの有効期限だとか、リバースのチャイムだとか、音も音声もいっぱいしますからね。

渡邊主管:ええ。メーカーとして提供しているものに関しては、音が出るタイミングもコントロールしています。それと今回は情報提供のための専用スピーカーをノートが頭出しで、一体型ディスプレイの向こう側に付けました。高品質活動のひとつで、日産車全体でこれから取り組んでいくことになっています。

プロパイロットはナビリンク付き、ただし最上級グレードにプラス44万円

プロパイロットはナビリンク付き、ただし最上級グレードにプラス44万円

島崎:ところでプロパイロットは、Xにセットでメーカーオプションなんですね。試乗車のスペックシートに44万2,200円とありましたが……。

渡邊主管:今回のプロパイロットはナビリンク機能付きに進化させています。新たにセンサー類は加えずソフトウエアでリンクを実現させたのがひとつのポイントです。ナビゲーションもデザイン、機能をメーターと連動させました。価格的な痛みのことをおっしゃっているのだと思いますが、機能の融合を味わっていただきたいという強い思いでこの形でご提供することにしました。

広報部:そもそもプロパイロットに関心が高い方は、パッケージでもご満足いただいているのが現状です。一方でナビが必要という方はSグレードでディーラーオプションのナビをお選びいただいている……社内的にはそんなフィードバックを受け取っています。

島崎:クルマの買い方、乗り方にも今はいろいろな手段、方法がありますしね。

渡邊主管:もちろんローンチのときのパッケージで終わりではなく、ご要望なども見ながら今後考えていくものかと思っています。

eペダル完全停止は「止めた」のではなく「進化させた」

eペダル完全停止は「止めた」のではなく「進化させた」

島崎:あ、それとeペダルのお話をお訊きしそびれていました! 新型は減速時に完全停止までしなくなりましたが、速度が落ちていき、ゼロになる手前の速度がスーッと抜けていく感じ、非常に自然でいいなと思いましたが、反響はいかがですか?

渡邊主管:我々の調査では、今まで8割以上のお客様がeパワードライブをお使いとのことでした。一方で、駐車車速で微妙なアクセルワークがしにくい、ギクシャク感がでる、もしくは停止時に同乗者が身体をグッと前に持っていかれる……そんな声もありました。そこで我々は“進化”と考えて、あえてクリープを残して扱いづらさを解消させました。40km/h、60km/hでアクセルを離した際も今まで以上にスムースに減速度が立ち上がっていくようにしました。減速度の変化を最小化することで、回生エネルギーは同じだけ稼ぎながら減速時の違和感をなくすようにしました。なぜ止(や)めた、の声は当然想定していましたが、楽であると同時に、実は燃費効率もいいこともご理解いただきたいと思います。

島崎:止めた、変えたではなく進化させたということですね。

渡邊主管:こういうことの考え方は時代とともに変わると思いますので、クルマの技術と人の感覚を融合させながら見ていくことだと思います。

広報部:クリープがあることで、止まるには本来はブレーキを踏むのがマストな運転の仕方だよと、いい安全動議の提示にもなっているとも思います。

島崎:広報さんからもブレーキがかかりましたし、時間も記事のボリュームもすっかりオーバーしていますので残念ですがこのあたりで。渡邊主管にはご専門の乗り味、操安性のお話など、また別の機会に伺えましたら嬉しいです。どうもありがとうございました。

(写真:島崎七生人)

※記事の内容は2021年4月時点の情報で制作しています。

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