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寄稿記事
村尾 美保

すべてのロードスター乗りと、未来の女性ドライバーに贈る小説~KODORA~第一話(上)

第一話 「ロードスターがやってきた! ハッピー&アンハッピー」 その1
第一話 「ロードスターがやってきた! ハッピー&アンハッピー」 その1

ロードスターがやってきた! ハッピー&アンハッピー(上)

「やっぱり東京は、まだ寒いな」

今日は3月25日
一か月ぶりに戻ってきたアパートでユキは窓を開けつつ独り言をつぶやく
実家のある九州熊本とは5℃は違うだろう
一か月も実家に戻っていたのは、実家が恋しかったわけではない
まあ、地元の友達と会いたかったのは事実だけど
今回の目的は自動車免許を取ること
どうせとるなら道を良く知っている地元が一番
わざわざ狭くクルマの多い都内で取る理由はない
正直、都内中心の今の生活でクルマを使う必然性は無いに等しい
田舎と違って電車やバスでどこでも行けるのに、わざわざクルマを買う人の気が知れない
父が持っていけと、強制的に送りつけられたスーパーカブも月に1~2回位しか乗らない
まあ、あればあったで便利な事もあるけど…

マニュアル免許にしたのは、頑固なオヤジの意向
免許資金の出資者だったので逆らえなかったし、実家のクルマがマニュアルだったせいもある
たまに帰った時に、地元でクルマが使えないとやっぱり不便だ

部屋の雨戸とカーテンを開け換気しつつ
PCの電源を入れてネットに接続する
メールはスマホで見ていたから、ほとんどが既読のはずなのに
既読になってないメールが目に留まった
≪おめでとうございます、当選いたしました≫
どうみても、スパムメールである
そのまま消そうとした時、携帯に電話が入った
知らない電話番号からだ

「ハイ」

電話を取るものの、相手がわからないのでこちらからは名乗らない

「出月様のお電話でしょうか、私、マツダの斎藤と申します」

マツダ?? 何かの売り込みだろう
先日、学生名簿が漏えいしているとの話を聞いたばかり
でも携帯番号は知らないはず

「はい、出月ですが…」

すぐさま切る準備をしながら、一応こたえてみる

「おめでとうございます、ご当選いたしました‥」

ああ、やっぱり何かの勧誘だな…

「ごめんなさい今忙しいので」

言葉を半ばに電話を切る
帰宅早々気分の悪い電話である
PCに目を戻すと、先ほどの「スパムメール」の内容が表示されていた

≪マツダ100周年記念ロードスターのご当選…≫

ここで初めて思い出した。地元で友達につられてジョークでクルマの抽選に応募した事を。まさか!
たしか、応募要項はマニュアル免許を3年以内に取得された方だった

『これ、マジ??』

心で叫び、先ほどかかってきた電話番号とメールに記載された番号を見比べる
同じだ!
担当の斎藤まで、ご連絡いただければ幸いです、って
あわてて、先ほどの電話に折り返しで電話をかけた

=======

駐車場はクルマ好きの大家さんのご厚意で、在学中は置いてもらえる事となった
その代わりに、「たまには運転させてくれ」という条件が付いていたが
ちなみに、ここの大家さんは父の大学時代の同級生である
駐車場には知らないメーカーのクルマが何台もある

一週間後、クルマを受け取りに指定されたディーラーへ向かった
大家さんのご厚意もありすぐにとはいかないが、とりあえず貰って、しばらくしたら売り払おう。半年も乗れば言い訳もできる

受け取るディーラーは電車で2駅先、そこから徒歩5分ほど
クルマやバイクなら10分かからない距離
道すがらこんなところで運を使っちゃうと、当分彼氏もできないかな~、なんてマイナス思考もでるが
道路沿いの満開になった桜の花が心を癒してくれる

ディーラーに入ると、マツダ本社の広報部に所属しているという斎藤さんが出迎えてくれた

「あらためて、おめでとうございます」

「いきなり電話切られた時は、どうしよかと思いましたが」

ちょっと嫌味であるが、悪そうな人ではない

「ごめんなさい、ちょっと立て込んでたんで」

そしてクルマとご対面
セラミックなんとかという白いボディーの曲線は写真で見るより数倍素敵だ
100周年記念車のオレンジのストライプが入っている
カッコいいかも、これが愛車になるんだ…、売り払う気持ちがどこかに吹っ飛んでいく
当選のセレモニーや写真を撮られ、ちょっと良い気分になったところでクルマの操作説明を受ける
説明に現れたのはツナギを着た若い青年、年は自分とそう離れていないだろう

「操作説明は彼が致します」

「緒方です、よろしくおねがいします」

青年の話し方は外見に似合わず落ち着いていた

「あっハイ、よろしくお願いします。免許取ったばかりでクルマの事全然わからないので」

クルマのドアを開けながら、青年はにこやかに笑う
笑顔が素敵である…、いやいや、そんな場合でない。クルマの使い方を覚えなければ帰れない

「彼は自分の後輩です。若いですがクルマの事は熟知していますので安心して何でも聞いてください」

すぐにクルマに乗り込まない自分をみて斎藤さんがフォローに入った

「はい、大丈夫です」

クルマに乗り込むとシート位置が低い
うわ、前が見えない! これ運転できないかも…、そもそもハンドルが遠くて手が届かない

「さっき自分が試運転したので、ちょっと合わせますね」

kodora第1話
青年はシートの位置とハンドルの位置を微調整する
その度に青年の顔が近づき、ちょっとドキドキしてしまう
色々調整の手順を教えてくれたはずだが、まったく頭に入らなかった

「質問はありますか?」

ふと、我に返ると説明は終わっていた

「あ、ハイ」

たどたどしい返事が、彼の不安をよぎったのか

「よければ、助手席に乗りますので、ひと回り近くを回りますか?」

「あ、ハイ」

反射的に答えてしまった。

「オープンのままでいい?」

そう、これはオープンカーだった
外から丸見えで、ちょっと、いや、かなり恥ずかしい
しかも隣は、ちょっといかした青年

「あ、ハイ」

それでも、この言葉しか出なかった
教習所と同じに、心に言い聞かせながらアクセルをゆっくり踏み込み
エンジン音が高まったところで、クラッチをゆっくり離す…

「あ!」

青年が言葉を出した瞬間に、ガクンっという振動とともにエンジンが止まる
一瞬の沈黙、エンストである…

「サ、サイドブレーキ!」

青年の笑顔が引きつった笑いになっている
恥ずかしくて顔は真っ赤、頭真っ白だ

「ゴメンナサイ!!」

慌てて再始動…、どのボタンだっけ

「自分も最初乗った時は、同じ事やりましたから」

笑顔でフォローしてくれるが、けっこう落ち込こむ

「ミッションをニュートラルに、クラッチとブレーキを踏んで」

言われるままにすると、青年がスターターボタンを押してくれた

2回目は、ちゃんとサイドブレーキを外して
エンジン音が高まって、クラッチを離す
キュンというタイヤの音と共に急発進、壁が迫ってきた!!

(つづく)

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イラスト:らびえぬ

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