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岡崎五朗おかざきごろう

「2030年、僕たちは電気自動車(EV)に乗っているのか?/岡崎 五朗レポート)

クルマのトピック「2030年、僕たちは電気自動車(EV)に乗っているのか?/岡崎 五朗レポート)

世界的な環境意識の高まりの中で、電気自動車(EV)に特大のスポットライトが当たった2021年。一方で火力に頼る発電所などの電源構成の問題やエネルギー危機、そしてバッテリー価格の高止まりなど、EVへの期待に対しての「不都合な真実」も顕在化してきました。果たして2030年にEVはどこまで普及するのか。カルモマガジンのレギュラー執筆者で、『EV(電気自動車)推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス)を共著で出版した岡崎五朗さんに意見を伺いました。

トヨタの「2030年にEV350万台を販売」に世界がザワついた

トヨタの「2030年にEV350万台を販売」に世界がザワついた

2021年12月14日、トヨタの発表に世界がザワついた。「2030年にEV350万台を販売」し、「レクサスは2035年に100%をEV化」と表明してきたのだ。トヨタは9月に2030年のEV販売200万台という数字を発表していたが、わずか3ヵ月で150万台もの上乗せである。

常識的に考えて、200万台から350万台の上乗せなど、わずか3ヵ月でできるものじゃない。EVの心臓部であるバッテリーの原材料確保もしなければならないし、生産工場の計画も立てなければならない。だから、最初に数字を聞いたときは「ついにトヨタも大風呂敷を広げてきた」と思った。

詳しい記述は省くが、国のCO2排出削減目標にしろ再エネ導入量にしろ、はたまた企業のEV生産台数目標にしろ自動運転の実用化にしろ、「野心的」といえば聞こえはいいけれど、どう考えても無理だろそれ、的な大風呂敷を広げてみせるのが最近の流行だ。それにつられて株価が上がったりするものだから、ファクトチェックが入り込む隙はなく、大風呂敷競争はますます激化している。それどころか、ファクトチェックをしようものなら、「アイツは地球温暖化対策に後ろ向きだ」という批判に晒されるのがオチである。まったく嫌な世の中になったものである。

2030年に「トヨタが生産可能なEV」が350万台

2030年に「トヨタが生産可能なEV」が350万台

とまあ愚痴めいたことはこのぐらいにして、とにもかくにもトヨタのEV350万台だが、よくよく取材していくと、実は大風呂敷でもなんでもないことがわかってきた。9月に打ち出した200万台は「世界中のディーラーにヒアリングしてはじきだした販売目標」、つまりこれぐらいは確実に売れるだろうという数字。それに対し今回の350万台は「仮に世の中がEVに大きく振れた場合、最大でこれぐらいは生産できますよ」という数字のようなのだ。

つまり、350万台という数字は9月の時点ですでにトヨタ内に存在していた。ところが200万台という発表では世間は納得してくれず、以前からあった「トヨタはハイブリッドをもっているからEVに消極的なのだ」とか「トヨタは水素をやっているからEVに消極的なのだ」という声が消えなかった。うーん、だったら販売ではなく生産上限の350万台という数字をだしやてろうじゃないか、という流れである。実際、トヨタは傘下の商社である豊田通商を通し、10年前からバッテリー生産に不可欠なリチウム資源の確保に乗り出し、全世界の生産量の10%を握っている。

2030年、世界では1/3がEVになっている可能性は十分ある

2030年、世界では1/3がEVになっている可能性は十分ある

ここで今回のテーマである「2030年のEV」についてだが、販売予想台数は調査会社によってまちまちだが、全生産台数1億台のうちの2000万台〜3500万台と予想しているところが多い。もっとも多いシナリオで見た場合、トヨタのEVシェアは3500万台のうちの350万台で10%。これは奇しくもトヨタのグローバルシェアと符合する。つまり、EVでもトヨタが現在のシェアを維持していくためには350万台生産を確保しておく必要があるというわけだ。そう、リチウム資源の確保にしてもシェアとの関連性にしても、350万台は決して大風呂敷ではなく、リアルな数字と考えていい。

というわけで、2030年には世界で販売されるクルマの10台のうち3台強がEVになっている可能性は十分ある。ただしこの数値には地域的にひらきがあり、EVを全力で推進しているヨーロッパや中国ではさらに高くなるだろうし、再エネ比率が低かったり充電インフラの整備が遅れたりしている国々ではグッと低くなる。

日本ではハイブリッドと住宅環境がネック

日本ではハイブリッドと住宅環境がネック

ならば日本はどうか。世界でもっともハイブリッド車が普及している国だけにEVへの移行もスムースに進むのでは?という人もいるが、実は逆で、ハイブリッド車の利便性や経済性に満足している人が多い分、あえてEVを選ぶ人はそれほど多くないと僕は見ている。

加えて、日本の住宅環境もEVの普及を阻害するだろう。自宅で夜間に充電して使うのがEVの基本的な運用方法だが、集合住宅では自分専用の充電器を確保するのが難しい。ガソリンスタンド代わりに使える超急速充電器を多数設置(この場合、夕方に充電が集中すると大停電のリスクが生じる)するか、あるいは路上に普通充電器を星の数ほど設置して夜間の駐車禁止を解除にするぐらいのことをしなければ、全国で55%、東京23区内では20%といわれる戸建て住宅所有者以外にEVを売るのは難しいだろう。

そしてEVに立ちはだかる価格の壁

そしてEVに立ちはだかる価格の壁

もう一点、価格も大きな問題だ。EVの価格はガソリン車はもちろん、ハイブリッド車と比べても高い。高額の補助金を付けてようやくイーブンになるかならないかといったところだ。普及が進めば大量生産効果で価格は安くなると主張する人もいるが、大量のEVを作るためには大量のバッテリーと大量の原材料が必要になる。全世界のEVシェアが1ケタ%に留まる現時点でも原材料の供給は逼迫し、価格は上昇傾向にあることを考えると、EVの価格低下は各メーカーの思惑通りには進まない可能性が高い。

また、ある程度普及が進んだら進んだで、購入時の高額な補助金は削られ、さらにガソリン税に相当する新税がEVに課されるのも確実だ。そう考えると、現時点はともかく、将来を考えた場合のEVのコストメリットは次第に薄れていくかもしれない。ただしガソリン価格が高止まるか、あるいはさらに上昇するようなことがあればEVには追い風だ。しかしハイブリッド車の燃費性能がさらに進化すれば、トータルコストメリットでEVとの大きな差はそれほど付かないと僕は見ている。

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前代未聞のエネルギー危機を経験し、さすがの欧州も現実路線に戻ってきた

前代未聞のエネルギー危機を経験し、さすがの欧州も現実路線に戻ってきた

そうはいってもハイブリッドを含めたエンジンを使ったクルマじゃあCO2はゼロにできないよ? たしかにその通り。しかし、2040年の内燃機関禁止草案を出すなど、カーボンニュートラルをもっとも熱心に勧めている欧州委員会が、なんと先日天然ガスを使った発電所をグリーン認定。ドイツもPHEV(プラグインハイブリッド)はEVの一種だと言い出した。いかに高い目標を掲げても、それが実現できなければ絵に描いた餅。前代未聞のエネルギー危機を経験し、さすがの欧州も現実路線に戻ってきた。

となれば、いくら燃費が優れていたとしても排ガスを出す以上はダメ!と糾弾されているハイブリッド車にも生き残る余地は十分にある。もちろん、EVでは十分な性能が出ない大型トラックではFC(水素燃料電池)やディーゼルハイブリッド、はたまた水素燃焼エンジンといった技術が使われていくだろう。

カーボンニュートラルにはEVが唯一の回答ではない

カーボンニュートラルにはEVが唯一の回答ではない

このように、カーボンニュートラルを目指すにはEVしかない、EVが唯一の回答なのだという考えに僕は与しない。住宅環境や使用環境によってEV、PHEV、ハイブリッドといった多彩な選択肢のなかから自分に合った一台を選ぶこと、また選べる選択肢を残すことが大切だ。極端な話、アルトやミライースのような、製造するときも使用するときも廃棄するときも消費するエネルギーがきわめて少ないシンプルで安価なガソリン軽自動車だって、LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の観点から眺めれば立派なエコカーなのである。

2030年の日本でのEV普及率は10%程度と予想

2030年の日本でのEV普及率は10%程度と予想

無理なダイエットと同じで、自宅に充電環境がないのに無理してEVを選んだら使い勝手の悪さに嫌気が差して乗り換える羽目になる。重要なのは、可能な限り地球環境を意識しつつ、多彩な選択肢のなかから自分自身にマッチしたクルマを選んでいくこと。その結果、2030年にどれぐらいの日本人がEVを選ぶのか。10%程度というのが僕の予想だ。

(写真:三橋仁明、N-RAK PHOTO AGENCY、トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、スズキ)

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※記事の内容は2022年1月時点の情報で制作しています。

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