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ナイル株式会社 代表取締役社長
高橋飛翔たかはし ひしょう

「自動配車システムSAVSが導く、これからのモビリティ社会」人工知能研究センター 野田五十樹×高橋飛翔対談【前編】

「自動配車システムSAVSが導く、これからのモビリティ社会」人工知能研究センター 野田五十樹×高橋飛翔対談【前編】
「自動配車システムSAVSが導く、これからのモビリティ社会」人工知能研究センター 野田五十樹×高橋飛翔対談【前編】
貯金ゼロでもマイカー持てる

MaaS(Mobility as a Service)をはじめとするモビリティ革命について、さまざまな観点から検討していく「MaaSミライ研究所」。

今回は、産業技術総合研究所 人工知能研究センターを訪ね、株式会社未来シェアとともに手掛けるオンデマンド交通の自動配車システム「Smart Access Vehicle System(SAVS:サブス)」について、産業技術総合研究所 人工知能研究センター 総括研究主幹博士(工学)で株式会社未来シェア取締役の野田五十樹さんにお話を伺いました。

オンデマンド交通の自動配車システムはガラケー時代に生まれていた

高橋飛翔(以下、高橋):本日はよろしくお願いいたします。初めに野田さんの研究領域と、株式会社未来シェアに携わられたきっかけを教えてください。

野田五十樹さん(以下、野田):研究領域は、主に人工知能(AI)の分野になります。マルチエージェント社会シミュレーション(以下、マルチエージェント)といって、コンピューターの中に複数のAIを集めた社会を作り、AI同士のやりとりで起こるさまざまな社会現象がどう変化していくのかを観察し、研究しています。
2001年に、地方の公共交通や高齢化の問題解決の一端として、路線バスをオンデマンドに置き換えて個々の乗客の要望を集めて最適な配車を組むことで、どれくらい効率を上げられるかという研究をマルチエージェントで行いました。それが株式会社未来シェアのもとになっています。

高橋:コンピューターの中の社会に、人がどのような理由でどう移動するかを組み込んだ複数のモデルをパラレルで走らせて、仮想空間上で現実社会の移動の流れを実現するといったイメージでしょうか?

オンデマンド交通の自動配車システムはガラケー時代に生まれていた1

野田:はい。ただ、当時はシミュレーションするにもコンピューターの分析計算能力は低いし、地図を入手すること自体がたいへんな時代です。それに加え、まだガラパゴス携帯が主流で、通信状況も限られている環境だったので、要望を集めるのも、また、みんながアクセスできる所へサービスを立ち上げることも簡単ではありませんでした。
結果としてマルチエージェントでは一定の条件下においてオンデマンドが優位となりましたが、交通工学からは「ありえない」と取り合ってもらえないとか、他にも実現するには課題が多すぎて、結局、研究は机上の空論で終わってしまったんです。

高橋:その当時にそこまで研究が進んでいたことに驚きです。

野田:それから10年ほど経ち、スマートフォンが普及して、クラウドもグーグルマップも手軽に使える時代になったことで、そろそろ実現化できるんじゃないかとの話が持ち上がって、2012年に再始動しました。2015年には実証実験を兼ねた実質的な最初のサービスも開始できたことで、翌年に株式会社未来シェアを立ち上げ、公共交通が抱える課題の解決に向けた取組みのひとつとして、乗客の要求に対しAIが最も効率的なルートを判断して相乗り車両の配車を決定する「Smart Access Vehicle System(以下、SAVS)」を本格的に進めることになりました。

高橋:オンデマンド交通の自動配車システムですね。SAVSのシミュレーションはどのように行われたのですか?

野田:最適な配車の決め方は、ドライバーに自分だったら一番ロスが少なくシェアできるルートはこれだというのを手を挙げてもらって、その中で一番良いものををAIに選ばせました。

高橋:ある種、ドライバーの勘を学習させたわけですね。2015年のSAVSの実証実験はどのように行われたのでしょうか?

オンデマンド交通の自動配車システムはガラケー時代に生まれていた2

野田:函館で開催された人工知能学会で、タクシーを使った学会参加者への送迎サービスとして行いました。利用者のスマートフォンから送られてきた「どこからどこへ行きたいか」の要望に対し、SAVSがリアルタイムで最適な経路を決め、タクシーはドライバー用タブレットに送られてきた「ここに寄ってお客さんを拾ってください、あるいは降ろしてください」という指示どおりのルートで、一度に複数の利用者を運んだのです。
日本においてタクシーのシェアリングは法律的に難しい立ち位置なのですが、主催者である学会がタクシーを借り上げて、学会の参加者へのサービスとして無償で提供したので、問題なく実験できました。

高橋:海外では「uberX(ウーバーエックス)」や「Lyft(リフト)」のような、一般のドライバーと乗客をマッチングするライドシェアが主流となっていますよね。どちらもアルゴリズム思想は近いものを感じますが、ライドシェアのマッチングとは違うSAVSの独自性はどのようなところですか?

野田:アルゴリズム的なところでは、それほど大きな差はないと考えています。ただ、我々の技術の強みは、綿密なシミュレーションの下で意思決定をしていることです。「平均待ち時間10分以下でピックアップする」など、さまざまな条件下でパラメーターを使ったシミュレーションを行い、サービスレベルを維持できる最適な配車台数や稼働エリアも割り出しています。

高橋:特定のエリアの中におけるサービス品質であるとか、車あたりの稼働効率みたいなところまでしっかり最適化されているんですね。

SAVSによる効率化は、福祉の送迎にも活かされている

SAVSによる効率化は、福祉の送迎にも活かされている

高橋:最初の実証実験から5年ほど経ちますが、SAVSは実際どのような事業者へ提供されているのでしょうか?

野田:SAVSは利用者の要望をマッチングして車に配分していくサービスなので、提供先は、タクシー会社や自治体、旅行会社などになります。車については各社で運行してもらい、マッチングの部分はSAVSのサービスを使うという形式になります。

高橋:普段の運行の中で、相乗りをしたいというニーズがあったら、配車アプリのようにしてSAVSを使う感じですね。タクシー会社などでは独自の配車アプリを持っているところもあると思うのですが、そのような場合は、マッチングシステムの裏側で働くアルゴリズムを提供する感じですか?

野田:そうです。通常はSAVSの標準システムを使用しますが、すでに配車アプリなどがある場合は、そちらで受けていただいた要望をSAVSのサーバーに送るようにシステムを組んで使用します。

高橋:SAVSを利用することで、利用者と事業者にはそれぞれどのようなメリットがあるのでしょうか?

野田:利用者のメリットは、相乗りすることでタクシーが通常より安く利用できることと、公共交通が十分になく、タクシーすらなかなか来ないというエリアにも、移動サービスが行き届くようになることです。
事業者の場合は、空いた車を有効に動かせたり、少ない台数でカバーできたりと、運転効率が上がることですね。なお、SAVSは公共交通に限らず、施設単位の送迎サービスなども効率化できます。
2018年には、群馬県太田市のデイトレセンター「エムダブルエス日高」で、デイケアサービスの送迎の効率化に加え、送迎の待機時間に、通所者の要請に応えて通院や買い物の送迎をするという実証実験も行いました。それを元にした「福祉Mover」という取組みは、すでに広まりつつあります。

SAVSによって解決できる問題は、公共交通不足だけではない

SAVSによって解決できる問題は、公共交通不足だけではない

高橋:SAVSは福祉施設に限らず、幼稚園の送迎バスや企業のシャトルバスなど、あらゆるところで応用できそうですね。

野田:できると思います。安全基準など別の問題はありますが、利用者から料金を徴収せず、施設のサービスや通勤補助といった形で運用すれば、法律的にも特に問題はないでしょう。
実際に地方の会社で、SAVSを使った通勤時の取組みが始まっているんですよ。例えば、企業城下町の大きな工場などは、自家用車で通勤する人も多く、出勤時間帯は大渋滞になってしまいます。最寄り駅から会社までの定期バスを運行しているところもありますが、「自宅から乗車場が遠い」とか、「今日は少し早めに出勤しなきゃいけない」「帰りにスーパーに寄りたい」などの理由から、車通勤にならざるをえないケースも多い。そこで、SAVSによるオンデマンド型の送迎で個々のニーズに応えて利用者を増やし、渋滞解消につなげているんです。

高橋:近隣の企業と連携して運用するなど、数社で共通の福利厚生サービスみたいにするのも面白そうですね。それでいくと、温泉街の駅前でよく見かける温泉旅館のシャトルバスなんかも、SAVSで一本化すれば効率化できそうに思います。

野田:地方の病院や観光施設など、車がないと行けないような所では、おのおのにバスとドライバーを抱えて送迎していますもんね。それをまとめて運行したり、タクシー会社などが一手に引き受けたりしてSAVSと組み合わせれば、効率の悪さが解消されるだけでなく、人手不足など付随するさまざまな問題も解消できるかもしれませんね。

後編は近日公開です。
※本対談は、緊急事態宣言発令前に行われたものです。

野田五十樹氏プロフィール

※この記事は2020年6月の「高橋飛翔のMaaSミライ研究所」の内容を転載しています。

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