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ナイル株式会社 代表取締役社長
高橋飛翔たかはし ひしょう

「MaaSは地方の移動課題を解決する」日高洋祐さん×高橋飛翔対談・後編

「MaaSは地方の移動課題を解決する」日高洋祐さん×高橋飛翔対談・後編
「MaaSは地方の移動課題を解決する」日高洋祐さん×高橋飛翔対談・後編
貯金ゼロでもマイカー持てる

株式会社MaaS Tech Japanの日高洋祐社長と「MaaSの今と未来」をテーマにした対談の後編です。今回はMaaSの社会的インパクトについて意見交換をし、さらに、モビリティビジネスを通してどのような社会課題の解決に取り組んでみたいかについても語りあうことができました。

ベンチャーにとって、今がモビリティ領域に食い込む絶好のチャンス

高橋飛翔(以下、高橋):前回、MaaSの未来について話しましたが、自動車産業の未来にも話を広げていきたいと思います。
ちなみに私は10年後の日本の自動車関連産業のトップ10に、ベンチャーが2、3社食い込んでいる状況というのは、ありうる現実だなと思っています。

日高洋祐さん(以下、日高):同感です。日本の産業は、作り切りで終わるものが多いんですよね。自社工場で効率的に作って、安く売って、マーケティングして、それを海外に輸出して…といった能力はあるけれど、サービスの運用経験に乏しい企業が多い。
日本版MaaSが発展するには、サービスの運用を考えられる人材の育成が必要です。そういう人材を育てることも、ソフトバンクとトヨタ自動車がモネ・テクノロジーズを設立した理由のひとつだと思います。

高橋:今日高さんがおっしゃった“作り切り”の構造は、大企業が数十年かけて太く育て続けてきた幹といえますよね。そう考えると「10年、20年後には、時代の潮流がサービス運用に移るから、幹をもう1つ増やしましょう」というのは、大企業にとって、めちゃくちゃ難易度が高いことがわかります。
一方で、今の日本のベンチャーは、100億円程度の資金を調達できてしまいます。それだけのお金があれば、イノベーションを起こせる可能性があるんですよね。

ベンチャーにとって、今がモビリティ領域に食い込む絶好のチャンス

日高:確かに、大企業で100億円の予算を作るのはハードルが高いけれど、ベンチャーでは既存の事業に対してしがらみの少ない100億円を調達できますね。

高橋:はい。当社も含めて、今の日本のベンチャーにとってはすごいチャンスだと思います。

MaaSの社会的インパクト。マイカー前提の地域で交通弱者を生まないために

高橋:日高さんは、MaaSの社会的インパクトについて、どのような考えをお持ちですか?

日高:社会課題を解決することで利益につながる産業が、多く出てくると思います。そういった産業が出現することで、例えば免許返納の問題など、人や社会に関わるクリティカルな問題が解決に向かっていくのではないでしょうか。

高橋:私も、社会課題の解決というインパクトは、明確にあると思っています。日本には、公共交通が発達していない地方都市がたくさんあります。そういった地方都市の中には、高齢者が人口の5割を占めるところも多いですし、免許を返納させることで「どうやって外出するの?」という課題が生じますよね。そういう課題を解決するサービスが、いち早く実現されるべきですが、まだ大きなプレーヤーは出てきていません。10年後には、高齢者の移動問題の大部分が、解消に向かっているような状態を期待したいですよね。

日高:高橋さんは、モビリティビジネスを通して、どのような社会課題の解決に取り組んでみたいですか?

MaaSの社会的インパクト。マイカー前提の地域で交通弱者を生まないために

高橋:私は、地方の交通弱者問題に取り組んでみたいと考えています。マイカーを前提とした社会で、人々が車を持てずに不便な生活を送ることになるというケースが、大きな問題だなと思っていて…。

国内には、所得の関係でローン審査に通らない方、つまり、お金を借りて車を買うことができない方がいらっしゃいます。ただし、その方の中にも、返済の意思と能力をお持ちの方はたくさんいるんです。
そういった方が車を持つにあたり妥協しなくて済むように、新しい与信管理のしくみを作り、車のサブスクリプションという形態での新たな、金融サービスを提供できないかと考えています。ビジネスを通して、交通弱者を生まない社会を実現したいという気持ちが強いですね。

日高:具体的なビジネスの構想をお聞きできますか?

高橋:一般的なローン審査に落ちてしまう人に対して、ローンの支払いが滞ると車が止まってしまうデバイスをつけた上で、車を提供し、ローン審査に通らない方であっても安心して利用できる自動車サービスに昇華させていきたいと思っています。
電気や水道と同じように、支払いが滞ると車の利用ができなくなるしくみにすれば、支払い率が上がって、金利を上げずに済みます。向こう1〜2年くらいは、そういったところをテーマにして、サービス開発をしていきたいと思っていますね。

日高:なるほど。私は、移動の担い手が、若者にシフトしていくことに危機感を覚えています。特に地方では、若い人たちがバスや鉄道を運転することで、1日中何かを運んだり、おじいちゃんおばあちゃんを送迎したりといった作業しかできなくなります。そうすると「町起こしのために必要な産業は何か?」とか「こういう事業をやってみよう」とか、クリエイティブに思考する芽を潰すことになりかねません。
運転は、すばらしい仕事だと思います。けれども、若い人たちにルーティンワークをさせていると、日本の活力はいずれ下降していきます。鉄道事業会社にいた身として、運転を機械に任せることができるなら、そのほうがいいと思っていますね。

高橋:「自動運転車が発達することで、タクシー運転手の仕事が奪われるんじゃないか」とよくいわれますけど、タクシー運転手の数が足りていないのが現状ですよね。そういった意味でも、自動運転が当たり前になり、人の移動を機械が担うようになっていくほうが、社会全体のメリットは大きいんじゃないかと思います。

人口約4,900人の町を舞台にした自動運転車のプロジェクト

高橋:日高さんは今後、モビリティ領域に、どのように関わっていきたいですか?

日高:さまざまなプレーヤーと、目指すべき未来についてコンセンサスをとりながら、いっしょに事業を展開したいという思いがありますね。それが、モビリティ領域で将来やりたいことを実現する、一番の近道なんじゃないかと思っています。

高橋:今、実際に取り組んでいるプロジェクトはありますか?

日高:上士幌町とJapan Innovation Challenge、ソフトバンクグループのSBドライブさんといっしょに、北海道の上士幌町で、自動運転の移動販売車を走らせるというプロジェクトを進めています。10月に運行開始予定です。

人口約4,900人の町を舞台にした自動運転車のプロジェクト1

高橋:上士幌町って、人口はどのくらいですか?

日高:北海道の広大な土地に、約4,900人の方が住んでいます。とてもすばらしい地域ですが、生活の機能が分散しているため食材などを買いに行くにも自動車が必須となるし、観光客が訪れても、ちょっとした買い物などで毎回移動の面で不便が生じます。人口規模が少ない町を持続可能にしていくためには、移動と生活のあり方を見直す必要があります。そこで、「どこに行きたい」といった移動の目的と、「これが欲しい」といった生活の目的をアプリでシェアし、移動販売車でそれらをつなぐというのが、今回のプロジェクトの大テーマです。

高橋:共助のしくみですね。コミュニティーの中での助け合いをアプリで行うというのは、新しいですし、おもしろいですね。自動運転については、こういった過疎地域での運用が、一番インパクトがあると思います。都内で自動運転車を走らせると、遅すぎてかえって迷惑になることが考えられますから。

日高:そうですね。しかも、今回のような利用の仕方なら、時速20㎞/hほどの低速でも十分効果が出ます。高速での走行に比べて実サービスの運用に早くつなげられると考えています。
高橋さんは、モビリティ領域にどのように関わっていきたいと考えていますか?

高橋:マイカーの概念を変えるビジネスを展開していきたいと思っています。新しいモビリティサービスが出てきても、マイカーのニーズがなくなるわけではないんですよね。モビリティサービスの需要が増えていき、マイカーの交通分配比率が下がっていく…という予測はつくものの、10年後や20年後も、マイカーに乗っている人はたくさんいるはずです。
ただし、マイカーのニーズは「所有」よりも「利用」に寄っていくのではないかと考えています。より利用に近いコンセプトで、車を提供していくことを考える中で見えてきたのが、先程お話ししたローン審査に通りづらい方向けの自動車サービスというテーマでした。リリース時期は決まっていませんが、今はサービス化に向けて動いている最中です。

日高:いずれ、ナイルさんともいっしょに事業を展開してみたいです。

高橋:よろしくお願いいたします。本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

人口約4,900人の町を舞台にした自動運転車のプロジェクト2

対談を終えて

MaaSをマルチモーダルMaaSに限定せずに幅広くとらえ、さまざまな取組みをする日高さんの活動に大変共感しました。また、上士幌町で10月から実証実験が開始されるという移動販売車の取組みは、とても興味深いと感じます。ぜひいっしょに、テクノロジーで交通弱者を救い、人々の生活をより良くするサービスを開発していければと思います。

日高洋祐氏プロフィール

※この記事は2019年9月の「高橋飛翔のMaaSミライ研究所」の内容を転載しています。

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