「東大教授と考える自動運転の未来」東京大学生産技術研究所・大口敬教授×高橋飛翔対談・Vol.1

「東大教授と考える自動運転の未来」東京大学生産技術研究所・大口敬教授×高橋飛翔対談・Vol.1

今回は、東京大学生産技術研究所で交通工学に関わる研究をする大口敬教授のもとを訪れ、「自動運転時代のモビリティデザイン」をテーマにお話を伺いました。

ITSの推進によって快適なモビリティ社会を目指す

高橋飛翔(以下、高橋):本日はよろしくお願いいたします。はじめに、大口先生の研究領域について教えてください。

大口敬教授(以下、大口):私はこれまで、さまざまな視点から交通工学に関わる研究を行ってきました。きっかけとしては、もともと車に乗ることが好きで、学生時代にアルバイトをして車を買ってあちこち走り回っているときに、信号待ちや渋滞など、交通システムへの不満が湧いてきたのです。そういった不満が、実は研究対象になるということを知り、交通工学の分野に足を踏み入れました。

ITSの推進によって快適なモビリティ社会を目指す1

高橋:東京大学生産技術研究所では、2009年4月に「先進モビリティ連携研究センター」(現・次世代モビリティ研究センター、ITSセンター)が設立されましたよね。自動運転に注目が集まり、最近ではニュースなどでもITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)が取り上げられるようになりました。先生は現在、ITSセンターのセンター長を務められているとお聞きしました。

大口:2018年4月にセンター長に就任しました。実はITSという言葉が使われ始めたのは1990年代半ばのことでした。私より30歳ほど年上の先生が、当時の交通システムを、こんな風に表現していたことを覚えています。

「夜に上空から道路を見下ろすと、ヘッドライトを灯した車は、まるで昆虫が触覚を伸ばしているように見える。その灯りが届く範囲以外には何も情報がなく、勝手に動き回っている」

ITSの推進によって快適なモビリティ社会を目指す2

その先生は「現在の交通システムは、とてもシステムとはいえない」と仰っていました。「移動体の動きを情報化し、システム全体としてうまく機能するようにするのがITSなんだ」と。

高橋:それから25年近く経った今、ITSはどこまで実現しているのでしょうか?中国では、信号機にカメラを設置して、道路の状況に合わせて信号の点灯時間を変えるような実験が行われていますよね。

大口:信号の制御というのは、実は新しい発想ではないんです。日本では、実はかなり昔から、複数の交差点間を連動させる取り組みを行っています。その割には「日本の信号はよく止められるな」と思いますけれども(笑)。日本の信号がうまく機能していないのは、個々の信号の制御の仕方が画一的だから。車が来ない方向に、ずっと青信号を出し続けている…といえばわかりやすいでしょうか。

高橋:渋滞を減らすためにも、もっと高度な信号の制御システムが必要ですね。ITSの推進によって、円滑で安全な道路交通が実現すれば、事故の減少が期待できるといわれています。自動走行システムもITS技術の重要な一部ですが、自動運転車が時速30キロで都心を走ると、逆に事故の危険性が高まるのでは…と感じます。そのあたり、先生はどうお考えですか?

大口:確かに、現在の交通システムのまま自動運転車を走らせると、危ないと思います。速度が遅すぎて、イライラするドライバーが増えるでしょう。しかし、信号や渋滞に引っ掛からずに目的地まで行けるとすれば、どうでしょう?
東京都区部では渋滞が慢性化しているため、車の走行速度の平均は、実は時速20キロ弱です。そう考えると、最高時速は20〜30キロ程度でも、ほとんど止まらずに目的地へ到達できるような交通システムが実現するなら、そのほうが快適かもしれません。

ITSの推進によって快適なモビリティ社会を目指す3

技術の進歩だけでは次世代のモビリティ社会は実現しない

技術の進歩だけでは次世代のモビリティ社会は実現しない

大口:車の自動運転化は、実は1950年代くらいから研究されていて、実装もされています。わかりやすい例が、マニュアルギアからオートマチックギアへの移り変わりです。「オートマチック」というくらいだから、まさに自動化ですよね。ブレーキが勝手に自動に切り替わる「ぶつからない車」も、タイヤの空転を防止する「トラクションコントロール」も自動化の一種です。
現在クローズアップされているような「ハンドルやアクセルにふれなくても、勝手に動いてくれるような車を作ろう」というのは、自動車メーカーからすればごく自然な思想です。

最近では、それとは別軸で、既存の自動車メーカー以外の企業が、自動運転車の開発に着手しています。実用化には至っていませんが、自律的な生き物のように最適な経路を選び、目的地まで勝手に運んで行ってくれるような車も既に存在しています。

高橋:しかし、そういった自動運転の技術だけで、次世代のモビリティ社会の実現は難しいですよね。

大口:まさにその通りです。今年7月に、国土交通省から「自動運転に対応した道路空間に関する検討会」を設置するというプレスリリースが出されました。私も委員の一人ですが、自動運転車が普及していくために、どのような道路空間が必要かという議論がやっと始まったんです。

高橋さんがおっしゃったように、車の性能だけ上がっても、次世代のモビリティ社会は実現しません。自動運転車が走りやすい空間といったハード面を整えるほか、セーフティネットとなるような法制度や保険制度の策定、交通規制の緩和のような環境整備も必要です。移動体のデザインも、まだまだ議論の余地があると思います。

高橋:移動体のデザインを見直すという発想は、おもしろいですね。

大口:どのような環境で、どのような移動体が必要か想像することは、次世代のモビリティ社会を考えていく上で、割と重要なんです。地域によっては、時速100キロ以上出るような車は必要ないかもしれませんし、車間制御システムも必要ないかもしれません。従来の車のデザインや機能が「正解」なわけではない。鋼鉄の塊ではなく、人に当たるとプニョーンとはねるような、プニョンプニョンの車があってもいいと思いますね。

高橋:プニョンプニョンの車、いいですね。乗り心地もよさそうです。(笑)

大口敬氏プロフィール

※この記事は2019年11月の「高橋飛翔のMaaSミライ研究所」の内容を転載しています。

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