「移動貧困社会と高齢者の免許返納問題」楠田悦子×高橋飛翔対談

MAAS対談
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MaaS(Mobility as a Service)をはじめとするモビリティ革命について、さまざまな観点から検討していく「MaaSミライ研究所」。
今回は、自動車事故や免許返納問題などで揺れる高齢者ドライバーの現状課題に鋭く切り込んだ『移動貧困社会からの脱却 免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)を2020年12月10日に上梓されたモビリティジャーナリストの楠田悦子さんと、超高齢社会におけるモビリティの在り方について語り合いました。

移動貧困社会とは?免許返納が引き起こす負の循環

楠田さんの新著

2020年12月10日に出版された楠田さんの新著

高橋飛翔(以下、高橋):本日はよろしくお願いします。カバーの色味もですが、「移動貧困社会」というワードがモビリティ社会の危機感を感じさせますね。この表現にはどのような意味が込められているんですか?

楠田悦子さん(以下、楠田):痛ましい事故が続いたことで、世の中的には高齢者ドライバーの免許返納を促す動きが加速していますが、実際に取材や活動を通して現場を見ていると、免許返納後に移動手段がなくなってしまうことのほうが非常に問題となっています。家族の運転に頼る方も多いですが、そうすると今度は家族も拘束されがちになって、中には仕事を失ってしまう方もいるんです。
免許を返納することで、生活、家族、ひいては地域経済までも疲弊するという負の循環が生まれているという現状から、移動手段の選択肢も実生活での経済面でも貧困に陥るという意味で、「移動貧困社会」と名付けました。

高橋:トリガーとなっているのが、地方部における交通手段の少なさですよね。バスもタクシーもないようなエリアでは、マイカーの依存度も必然的に高くなりますし、免許返納と言われても、タイミングや返納後の生活を思って悩まれる方はたくさんいると私も感じています。

楠田:そうですね。ただ、今は車以外の移動手段もたくさんあるので、当事者や家族に情報がきちんと届けば、免許返納後も暮らしに困らない状況を作れるはずなんです。実際、スマートフォンで簡単に情報を入手できますから。でも、能動的に取りにいかないと得られない情報は、結局、必要なところに届かないんですよね。

高橋:Web自体ほとんど使わないような環境だと難しいですね。きちんと検索できないことがハンディになっているのは現代の大きな問題だと思います。

先進技術で防げる事故はある

先進技術で防げる事故はある

高橋:移動弱者にどうやって情報を届けるかも今後の課題になると思うのですが、解決策のヒントとしては、海外の取組みなども参考になりそうですよね。楠田さんはモビリティジャーナリストとしてグローバルに活動されていますが、海外の高齢者ドライバーの免許返納問題はどのような感じなのでしょうか?

楠田:高齢者の移動や孤立は国際会議などで話題に上りますが、免許返納についてはあまり問題視されていない印象です。海外よりも日本のほうが命題として挙がっているイメージですね。

高橋:日本だと高齢者ドライバーの事故がニュースになることも多いから、社会的なテーマになって、免許返納の話が盛り上がってきたという経緯がありますよね。

楠田:実際はさかのぼって調べても、警察庁によると、2007~2019年で75歳以上の運転者による交通死亡事故の発生件数は、年間500件を切っていて、加速度的に増加しているとは言いきれません。一方で、衝撃的な事故が多い傾向から、目立ってニュースになってしまう。

高橋:車の性能向上によってカバーできる問題ですね。ただ、経済的な事情から手が届かず、結果的に先進安全性能付きの車であれば防げた事故を起こしてしまったという事例もあるのではないかと思っています。

楠田:確かに、高齢者が手軽に先進安全性能を搭載した車に乗れれば、防げる事故もあると思います。公共交通が利用しやすくなることも大切ですが、現実問題として、少しでも長く車に乗れることが今の日本ではすごく重要だと感じています。
私は移動の専門家として、自力で移動できる期間である「移動寿命」を延ばすことを考えているのですが、年を取っても長く車に乗るためには、安全性能が充実している車は理想的だと思います。でも、やはり価格がネックですね。

高橋:先進安全性能を搭載した車は高額ですからね。今、軽自動車のシェアが所有車の50%近くを占めているのですが、車のダウンサイジングが起きている背景には、みんな経済的ゆとりがなくなってきていることもあると思います。

楠田:あと、事故を起こさず運転し続けられるためのサービスや情報も、免許返納後の移動手段と同じくらい圧倒的に足りないと感じます。メーカーなどで対応してもらえたら、とも思うのですが……。

高橋:実は、我が社では「おトクにマイカー 定額カルモくん」というカーリース事業を展開してまして、車が必要な環境なのに金銭的な事情で車が買えないとか、ボロボロの中古車に不安を抱きながら乗っているような方に、いい車を提供できるサービスに意識して取り組んでいるんです。
今後、免許を返納できない方たちへの小さな一歩として、先進安全性能を搭載した車を、搭載していない車と同じ価格で提供できればと計画しているところです。

楠田:おお!画期的ですね!とてもいいと思います。また、高齢者ドライバー向けの車としてスピードとか過剰な機能を取って、代わりに先進安全性能を付けても価格を抑えることができそうですよね。

70歳以上のドライバーの52.4%が免許を返納できない環境で暮らしている

70歳以上のドライバーの52.4%が免許を返納できない環境で暮らしている1

高橋:車に安全性重視のカスタマイズをすることで、歳をとっても安心して車に乗り続けられるようになるのではないかと思います。というのも、定額カルモくんで全国の70歳以上のドライバー1,418名を対象にアンケート調査を行ったところ、40%の方が運転に不安を感じていて、そのうち66%の方が、不安を感じる理由に運動神経や反射神経の衰え、視力や聴力の低下、疲れやすさや急な体調の悪化など、加齢による体調の変化を挙げているんです。
つまり、車の先進安全性能が、多くの高齢者ドライバーの不安要素を補えるんです。

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カーリースの定額カルモくんで行った高齢者の免許返納事情についてのインターネット調査
調査対象:車の運転をしている全国の70歳以上の男女1,418人
調査期間:2020年10月16日~10月26日

 

楠田:私の肌感覚としてもそう思います。ただ、警視庁などが行った調査では、免許返納を考えたことがないというデータもたくさん上がってきていて、自分はまだ大丈夫だと思っている方が多い印象です。

高橋:そうなんですね。うちのアンケートでも30%の方が免許返納の予定はないとしていて、そのうち60%の方は車が必要という理由を挙げています。また、全体の50%の方は環境的に免許返納ができないと答えているんです。ここから、高齢者の移動手段がマイカー一択になっていることがうかがえます。
先進安全性能を充実させることで免許返納を遅らせる状況を作れるかもしれないという説は現実的な気がします。

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楠田:安全面で考えればそうでしょうね。あと、思ったのが、免許を取るシステムは社会のしくみとしてしっかりある一方で、これまでは返納が当たり前ではない社会だったから、免許返納自体にすごく抵抗があるようにも感じます。まるで「大人返納」みたいな。

高橋:男性だと、一人前の男を引退するような感覚ということでしょうか?

楠田:そうです、そうです(笑)。尻尾を切られたような。その傷付き方ってすごいんじゃないかと思うんです。やっぱりできないことが増えるのって誰しも嫌だと思うので、私たちが毎年健康診断に行って数値を確認するみたいに、運転スキルを上げるとか、車に乗り続けるための体作りを向上させるとか、そういったしくみを整える必要があります

高橋:免許返納を遅らせるいい体作り。いいですね。もしくは、時速60km以上出しちゃだめとか、高速道路を走っちゃいけないとか、少しずつ返納に向けていけるしくみであれば、抵抗感もやわらげられるのではないかとも思います。乗り続ける方向であれば、先進安全性能付きの車以外乗っちゃだめとか。いずれにしても補助金のサポート体制を作って。

楠田:そうありたいとは思うのですが、なかなか難しいみたいですね。

完全自動運転に代わる最強の次世代モビリティ

完全自動運転に代わる最強の次世代モビリティ

高橋:そう考えると、すでに取組みが始まっている自動運転が一番現実的なのかといえばそうでもなく、今後急速に広がっていくのかという問いが残っています。寝ていられるほどの完全自動運転の社会が来るといわれて、もうかなり経ちますが結局ほとんど広がりを見せていない。
きっと2050年とかになってもたいして来ていないだろうと私は思っています。逆に言うと、それだけ息の長いテーマなんですよね。そこがおもしろいなとも思いますが(笑)。

楠田:そうなんですよ。息の長いテーマだからこそ、移動貧困社会のギャップを埋めるためには、地道にさまざまな移動手段を使うことも検討すべきなんです。
そんな思いで、免許のいらない高齢者のための移動手段の界隈を回って、シェアリングとかMaaSとかも含めて一つひとつ特性を見ていった結果、自転車って最強の乗り物だよね、ってなりました(笑)。

高橋:次世代モビリティは自転車が来ると!(笑)。それは電動アシスト付き自転車のことですか?

楠田:今の自転車はすごく進化していて、便利な自転車は電動アシスト付きだけじゃないんですよ。だから、車みたいに好みとか用途に合わせて適切なものを選べるんです。
しかも、健康にもいいし、小路にも入って行けるし、自然を感じるとか五感で楽しめる可能性もある。排ガスも出さないし、自転車道を整備すれば、もれなくほかのパーソナルモビリティも走れるようになるんです。

高橋:将来に向けてのインフラ投資にもなるんですね。

楠田:そうなんです!それに今、倒れない自転車の開発に取り組んでいる企業もあるんですよ。自転車に限ったことではないですが、移動貧困社会脱却に向けて、ニーズが増えていくことでプロダクトが開発されるような感じがモビリティ社会の中で進んでいくといいなと思っています。

対談を終えて

自転車が次世代モビリティになるというのは、かなり新鮮なお話でした。でも確かに、免許返納後の移動手段としてはメリットが多いと思います。同時に、先々を踏まえて、50、60代くらいから車と自転車の両方を利用する生活を送ることで、感覚や体力が向上して、運転の自信にもつながるのではないかと。そこに車の先進安全性能が合わされば、安心して車に乗って出かけられる期間が延びるかもしれない。そんな夢のある対談だったなと感じます。

※この記事は2020年12月の「高橋飛翔のMaaSミライ研究所」の内容を転載しています。

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※対象は、こちらのバナーから審査をしていただいた方で初回引き落としが確認取れた方。また、新規申込みの方(申込み期限は2021年12月31日まで)

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