未来の移動サービスをひと足先に体験!北海道・上士幌町でのMaaS実証実験、視察レポート【後編】

未来の移動サービスをひと足先に体験!北海道・上士幌町でのMaaS実証実験、視察レポート【後編】
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2019年10月にMaaSミライ研究所のメンバーが参加した北海道・上士幌町で行われた「生涯活躍のまち上士幌MaaSプロジェクト」の視察レポートの後編です。上士幌町役場 企画財政課の梶達(かじ・とおる)さんと、MaaS Tech Japanの日高洋祐(ひだか・ようすけ)社長に、今回のプロジェクトの成果と課題についてお聞きしました。
前編「未来の移動サービスをひと足先に体験!北海道・上士幌町でのMaaS実証実験、視察レポート」をご覧になる方はこちら

エコシステムの形成が日本版MaaS推進のカギになる

エコシステムの形成が日本版MaaS推進のカギになる1

MaaS Tech Japanの日高洋祐社長

——今回の実証実験の手応えについてお聞かせください。

日高洋祐さん(以下、日高):非常に可能性を感じる取り組みでした。実証実験中の3日間は、車を運転せずに町中を移動しましたが、不便を感じることはあまりなかったですね。町の主要施設は上士幌町交通ターミナル周辺に集約されていますし、ナイタイテラスやドリームドルチェなど町の中心部から近い観光スポットも、電動自転車やシャトルバスを利用すれば回れます。ただし、マネタイズできる状態まで持っていくには、もう少しビジネスモデルを考えなければいけないと思いました。

上士幌町の中心部

日高:まず、諸々の課題の検証はこれから行いますが、経路検索については見直しが必要だと感じます。公共交通機関が少なく、都心のような「早い」「安い」「近い」とは違う経路検索のロジックが求められるからです。スーパーの商品予約に関しても、配達される30分前までならキャンセルできるしくみがあればいいなど、細かい改善点はたくさんあります。今後も実証実験を重ねることで、MaaSの中でこの町にどんな機能が必要か、明確になっていくはずです。

エコシステムの形成が日本版MaaS推進のカギになる2

上士幌町役場 企画財政課の梶達さん

——町としてはどうですか?

梶達さん(以下、梶):プロジェクトを開始するにあたり、町民向けのアプリ説明会を開きましたが、高齢の方から「これは無理だわー」という声が上がっていたんです。ところが、いざ実証実験がスタートすると、若いご夫婦が隣に住むおばあさんの分も商品を頼んでくれるなど、町民同士の助け合いの場面が見られました。どうすればアプリを使ってもらえるかばかり考えていましたが、助け合いのしくみを作ることも、MaaSの推進には必要なのかもしれません。

——なるほど。町中で実証実験を行ったことで、日本版MaaSのあるべき姿がより鮮明になったのではないでしょうか?

日高:そうですね。梶さんがおっしゃるとおり、MaaSを推進するには、ただアプリを作ればいいわけではないし、交通体系を変えればいいわけでもありません。自治体の受け入れ体制や、周辺の人たちとの関係性といったエコシステムを作っていく必要があるんです。MaaSや交通システム、アプリといったテクノロジーと、それを受け入れる交通事業者や自治体、町の人たちとの調整。日本版MaaSを推進するには、この両輪を上手く回す必要があるんだなと、今回のプロジェクトを通じて実感しました。
上士幌町の場合は、こちらで関係者調整をしなくても、梶さんが全部やってくださいました。ここまで協力的な自治体はなかなかありませんから、正直に言うと、今回はちょっと楽をしすぎている感じがあるんですよ(笑)。ただ、上士幌町の状態を理想として、ここに近づくように関係者調整をしていけばいいというガイドラインみたいなものは、見えた気がしています。

——今回、自律走行バスに乗せていただきましたが、後続車から追い越されたときに急ブレーキがかかる点が気になりました。そのあたりの機能改善や、町の方への周知については、どのように考えていらっしゃいますか?

日高:衝突しにくいとか安全に止まるとか、機能面はもちろん大事ですけど、自律走行バスが町中を走るには、社会受容性みたいなものが大切になると考えています。時速20kmでノロノロ走る車は、通常はじゃまにされますよね。けれども「この車は西団地に住む高齢者の方に向けた物資を運んでいるんだ」という前提をみんなで共有していれば、優しく見守れると思うんですよ。

——確かに。普通車でも、「赤ちゃんが乗っています」というステッカーが貼られているだけで、その車を追い越すときの意識が変わりますね。

日高:まさにそれと同じです。2019年1月に行われたCES(ラスベガスで開催される電子機器の見本市)で、ヤマハ発動機が自動運転を見据えた小型低速モビリティ「Public Personal Mobility (PPM)」を参考出品しました。モビリティをロバに見立て、人々の愛着を育てていくというアプローチ。運べる物は限られるし、ちょっとミスをするかもしれないけれど、町全体でモビリティを見守ってあげるんです。
昔の農村では、重い荷物を馬に運んでもらっていましたよね。その馬が死んじゃったらみんな悲しいし、新しい馬が来てくれたら可愛がる。単なる機能ではなく、生活を共にする存在として、愛着が湧くんです。
自律走行バスも「あのバスはおじいちゃん、おばあちゃんのために一生懸命荷物を運んでいるんだ」という意識で見てもらえるようになると、たまにつまずいて止まっちゃうという弱点があっても「まあ、見守ろうかな」と思ってもらえるかもしれません。もちろん公道を走行するので、安全性やほかの自動車との協調は重要ではありますが、共感を得られるようなマーケティングは重要だと思います。

エコシステムの形成が日本版MaaS推進のカギになる3

皆で愛着を持って接すれば、時速20キロも許せるはず

ユーザーの移動を束にすることで効率的な移動が可能に!

——今回の実証実験では、シャトルバスの予約ができたり、モビリティの貸出予約ができたり、スーパーの商品を購入できたりするなど、さまざまな手続きをアプリ上から行えました。今後はどのようなサービスをアプリに連携していきたいと考えていますか?

梶:日高さんは「病院の予約と移動と決済を、MaaSアプリで完結できたらいい」とよくおっしゃいます。13時に病院の予約ができたから、そこから逆算して、12時半に循環バスが迎えに行きます、みたいな。複数人の予約をシステム上で処理して、AさんとBさんとCさんの家へ循環バスが迎えに行き、全員13時前に病院に着くところまで実現できると、なおいいですよね。

日高:アプリを作るときに、町の機能を1つのアプリにまとめるか、交通は交通、病院は病院というふうに分けたほうがいいか、という2つの考え方があります。上士幌町のようなコンパクトな町の場合は、移動も病院の予約もスーパーの特売情報も、オールインワンのアプリのほうが便利だと思います。
今後はメッセージ機能などもアプリに入れていく予定です。そうすると、スーパーにリクエストを出すことができますし、タクシーの運転手さんとのやりとりもアプリ上でできるようになります。町のSNSみたいなものがあり、事業者とユーザーがつながったり、事業者同士が情報共有できたりすると、色々な動きが効率化されるのではないかと。そのあたりは、今回の実証実験を終えての発見ですね。

ユーザーの移動を束にすることで効率的な移動が可能に!

梶:実証実験にご協力いただいたスーパー「Aコープルピナ」に、MaaSプロジェクトの話をしに行ったとき「そもそも、うちは9時半に開店するのに、循環バスはうちの前に9時に止まるんだよ」って言われたんです。9時半までお客様を待たせるわけにもいかないから、今までは開店を少し早めて、9時にいらしても買い物できるように融通してくださっていたようです。その事実を知らなかったことに反省しましたし、循環バスの運行は今後変えてもらおうと思っているんですけど……。
MaaSプロジェクトの話をしているときに、「それなら、9時半ぴったりに着くように移動できるね」「タイムセールの15時に着くように自律走行バスを呼べるならもっといいんじゃない?」って、スーパーさんが言ってくださって。「今は新聞に特売のチラシを入れているけど、アプリに特売情報を載せられるなら広告費の削減にもつながる」と、今後のアイディアもいただきました。おそらくほかの施設でも、MaaSアプリによって解決できる悩みは多々あるだろうと感じましたね。

日高:アプリを充実化するのはもちろん、今後は予約の調整が重要な課題になってくると感じています。今回の実証実験ではカーシェアを2台用意しましたが、観光シーズンになると、2台きりではとてもまかなえません。それなら100台用意すればいいと思うかもしれませんが、そうすると、閑散期はほとんどの車両が遊休資産になってしまいます。
シャトルバスやタクシーも同じで、限られた車両数とドライバー数で町全体の移動をまかなうことを考えると、どうしても調整が必要になってきます。東京圏はめちゃくちゃ物が余っていて、それらをシェアリングするサービスが次々生まれていますが、上士幌町のようなコンパクトな町では、先に効率化の問題を解決しなければいけません。

——効率化とは?

日高:例えば、レストランの予約時間を15分ずらしてもらえれば、AさんとBさんを一緒に移動させられる、という感じです。施設側とモビリティが連携して、ユーザーの移動を束にしていけると、効率化が可能になります。上士幌町には、ミシュランのビブグルマンに掲載されるような鮨屋もありますが、そこまで1組ずつ送迎していると非常に効率が悪い。多くの人が訪れる施設側とモビリティが連携して、どういったコントロールができるかを、次のフェーズではやっていこうと考えています。

モビリティの充実は暮らしやすさに直結する

モビリティの充実は暮らしやすさに直結する

——上士幌町は移住者が増えているそうですが、暮らしやすい町の条件について、お二人はどのような考えをお持ちですか?

日高:モビリティを使った都市計画は「コンパクトシティ+ネットワーク」という考え方がトレンドです。町の主要施設が広域に点在していると、各所を交通でつながなければいけないため、コストがかかりやすい。コスト低減と効率化のために、できるだけ拠点を1ヵ所に集約させるのが、コンパクトシティという考え方です。
上士幌町でたとえると、町の機能をできるだけコンパクトにまとめて、町の中心から数キロ四方に重要な拠点が集約しています。一方で、大型の病院やスポーツ施設、ナイタイ高原牧場のような観光施設など、広い土地が必要なコンテンツは、拠点から離れた場所に置きます。あとは拠点と遠隔のコンテンツを交通ネットワークで結ぶだけ。拠点から離れた場所で暮らす人には、マイカーで移動してもらいます。
移動の自由を担保するところ、担保しないところを明確に分けると、街の機能の充実と、コストを下げることが両立できる。これが、コンパクトシティ+ネットワークという考え方の一つです。もちろんほかにも異なるモデルはあろうかと思いますが、今回の実証で具体的にその状態を仮想的に作り出すことで、概念のイメージが明確化されました。

梶:上士幌町では、上士幌町交通ターミナルを中心とした1キロ圏内を「上士幌セントラルベルト」と呼んでいます。コンパクトシティと呼べるほどの都市ではありませんが、公共施設をこの一画に集約して、生涯学習センターを新しく建てたり、保健師さん常駐の健康増進センターが併設されている温泉施設もこの一画にあります。民間の病院もありますし、町の機能が中心部にギュッと集約しているんですよ。
とはいえ、農村地域を放棄して、中心部に住んでほしいというわけではありません。この1キロ圏内は徒歩で移動できて、子どもから高齢者までさまざまな人でにぎわうような状態を目指しています。

——今回の実証実験は第1弾とのことですが、今後の展望について教えてください。

日高:自律走行バスやシャトルバスの運行はいったん休止になりますが、ここからは現実的にあるものに落とし込んで、それを地域の方々と一緒にブラッシュアップしていくフェーズに移ると思います。2020年4月に「かみしほろシェアオフィス」がオープンする予定ですが、少なくともナイタイテラスなど主要施設まではマイカーがなくても移動できて、事業として持続可能な状態まで持っていけたらいいと考えています。
シェアオフィスに1ヵ月ほど住んでいただいたときに、「ここでも暮らしていける」と思ってもらえる状態が、最初のマイルストーン。本格的に雪が降り始めると、使用できるモビリティが限られてくるので、そこは考えなければいけませんが。

——移動が人の生き方を変える気がしますね。

日高:ずっと同じ場所で暮らすこともよいですが、生活の拠点を複数持って、自分の好きな季節に好きな場所に移動する。その自由度があると、そのニーズのある方にはQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が上がりやすいと思うんです。観光でもなく移住でもない生活の仕方があってもいい。東京の夏は暑すぎて能率が上がらないなら、8月は上士幌町で仕事をするのもいいですよね。それを実現するためには、シェアオフィスや長期滞在型の宿が必要ですし、教育や医療や税金の支払い方など、調整しなければならない点がたくさんありますけど。
この話をいまの上士幌町でやろうとすると、夜中に小腹が空いたときにスーパーまでの移動手段がなく、真っ暗な町中を歩いて道に迷います(笑)。ちょっとお腹が空いたときに缶ビールとつまみを買いに行けるとか、生活のしやすさを担保するのがMaaSやモビリティで、快適に移動できれば暮らしのさまざまなシーンが変わってきます。
「上士幌で1週間暮らしたい」と思ったら、ワンタップでホテルと航空券と移動手段が仮予約できて、「決定」を押したらあとは行くだけ、というサービスを作るのは不可能ではありません。食事も同じアプリから予約できるとなおいいですよね。ワンタップで拠点を移せて、帰りたいときに帰るというのは、割といい感じの未来じゃないかと思います。

梶:北海道はどの地域も同じような課題を持っています。電子マネーのように、色々なサービスが立ち上がると、ユーザーにとっては不便ですよね。統合できるならどんどん統合して「北海道でこのアプリを立ち上げれば、最適な移動手段が検索できるし、予約もできるし、決済もできます」みたいなサービスが立ち上がるのが、理想の形ですね。

視察の報告を受けて

今回、MaaSミライ研究所のメンバーに、スマートモビリティチャレンジの一環として行われた「生涯活躍のまち上士幌MaaSプロジェクト」を視察してきてもらいました。

MaaSが地方を救おうとしている、それを実際に感じることができて、非常にワクワクしています。
また、視察の報告を受けて感じたのは、「地方を救うモビリティの在り方には決まりがない」ということです。その土地の地形や気候、町としての構造、住む人々や産業、文化などによって、そこにあるべきモビリティは大きく変わる。
上士幌町の取組みをそのまま同じように行っても、うまくいく町もあればそうではない町もあるでしょう。学ぶべきは、町を変えよう、町を残そうという意識、姿勢です。

上士幌町がスマートモビリティチャレンジの支援対象地域に選ばれたのは、未来に向けて変わりたいという町の積極的な姿勢があったからこそ。先進的なプロジェクトを受け入れ、基盤を作って試し、いい物を町のインフラとして残していく。
その結果、観光客や住民票を移す人を増やすという「町を成長させる」構想は、日本全国で進む過疎化対策のモデルとなるのではないでしょうか。

今後も、MaaSミライ研究所ではMaaSのミライを考える現場をレポートしていきます。

※この記事は2020年2月の「高橋飛翔のMaaSミライ研究所」の内容を転載しています。

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