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「ホンダNSX タイプS」最終進化形として有終の美を飾るに相応しいモデルだ(岡崎五朗レポート)

「ホンダNSX タイプS」最終進化形として有終の美を飾るに相応しいモデルだ(岡崎五朗レポート)
「ホンダNSX タイプS」最終進化形として有終の美を飾るに相応しいモデルだ(岡崎五朗レポート)

生産中止がアナウンスされたホンダのスーパーカー、NSXにタイプSが設定された。全世界で350台限定、日本では30台のみしかデリバリーされず、価格は2,794万円で予約時に全額現金払込み。そんなNSXタイプSを岡崎五朗さんがリポートします。

NSXはスーパーカーと呼べる唯一の日本車

NSXはスーパーカーと呼べる唯一の日本車

スーパーカーと呼べる唯一の日本車、ホンダNSXがついに生産中止になる。こう書くと、GT-Rはスーパーカーじゃないの?とか、俺はイタリア車以外はスーパーカーとは認めないとか、いろいろな突っ込みが入りそうだ。けれど、超高性能でミッドシップ、なおかつ超高価なスポーツカーという意味で、NSXはやっぱりスーパーカーという呼び方が相応しい存在だと思う。

そんな日本の誇りとも言えるクルマがデビューからわずか5年で生産を終えてしまうのはとても残念だ。それに先立ちホンダはS660やレジェンド、オデッセイの生産中止もアナウンスしている。4輪事業でほとんど儲けを出せていないという懐事情があるのは理解できるが、うーん、それでもやっぱり残念なものは残念と言うしかない。

計画の3分の1にとどまった販売台数、乗り越えられなかった北米の環境規制

計画の3分の1にとどまった販売台数、乗り越えられなかった北米の環境規制

なぜホンダはNSXをカタログから落とすのか。ひと言でいえば目論見通りに売れなかったからだ。販売計画は年間1,500台(うち日本は100台)だったが、実績はその約3分の1。それでもホンダ(米国ではアキュラ)ブランドのイメージリーダーカーとして長く細く生産を続けていくという方法もあっただろう。が、北米で2022年から施行予定の環境規制がとどめを刺した。揮発ガソリンを限りなくゼロに近づけることを義務付けた規制を、現在のガソリンタンクではクリアできないことがわかった。しかし新規にガソリンタンクを設計、製造するには莫大なカネがかかってしまう。結果、泣く泣く生産中止を決めたという。

タイプRではなくタイプSな理由

タイプRではなくタイプSな理由1

しかし、密かに退場させるのは余りに不憫だとホンダは考えた。そこで登場したのがタイプSだ。NSXの高性能版と言えばタイプRだが、開発を担当した水上聡氏は「サーキット走行に焦点を当てたタイプRではなく、すべての領域で最高のパフォーマンスを発揮する”SUPER NSX”としてタイプSを投入しました」と語る。サーキット走行はもちろん、日常的な走行シーンでも味わえる最高のNSXとはどんなクルマなのか?ホンダの鷹栖テストコースで思う存分試乗した。

タイプRではなくタイプSな理由2

外観で目立つのはノーズ部の意匠変更だ。センター開口部を大きくとるとともにコーナー部の形状を最適化し、空力性能と冷却性能を徹底的に追求した。ホンダエンブレムをより低い位置に配置したことによるシャープな顔つきもカッコいい。その他にも、風洞実験を繰り返すことでフロントリップスポイラー、リアディフューザーなどの形状を最適化し、高速走行性能に大きな影響を与えるダウンフォースを増加させた。タイプSのデザインにはすべて機能的な裏打ちがあるということだ。

サーキット専用「TRACK」モードでの走りは鮮烈

サーキット専用「TRACK」モードでの走りは鮮烈1

3.5LV6ターボの出力は過給圧アップなどにより507psから529psに向上。バッテリーの出力も7ps引き上げ、エンジン+モーターの総合システム出力は610ps!に達した。さらに、フロントに搭載したツインモーターシステムのギア比を20%下げることで、モーター駆動の力強さも増したという。シャシーではタイヤをよりハイグリップなタイプに替えるとともに、減衰力可変式ダンパーのセッティングも変更した。

サーキット専用「TRACK」モードでの走りは鮮烈2

走りはじめてすぐ気付いたのはクルマの動きがソリッドになったことだ。ステアリングを切り込んだ瞬間のフロントの動きがよりシャープになり、外側が沈み込むロールも減った。とくに、サーキット専用モードともいうべき「TRACK」モードでの走りは鮮烈で、グリップ性能の高まったタイヤの能力を100%使い切るような走りをしたときの速さとコントロール性は、初期モデルはもちろん、マイナーチェンジでサスペンションのセッティングを変更した2019年モデルと比べても明らかに進化している。前後左右の荷重変化を感じながらステアリングやアクセルのコントロールができる上級者にとって、TRACKモードは最高に楽しい。

思い通りの弧を描いて曲がってくれる「SPORT+」モード

思い通りの弧を描いて曲がってくれる「SPORT+」モード1

「SPORT+」モードを選ぶと、SH-AWDによるトルクベクタリング効果が高まり、コーナーに「巻き付く」ようなコーナリング体験を味わえる。イン側に巻き込むのでも、アウト側に膨らむのでもなく、コーナーの曲率に合わせてクルマが巻き付くように曲がっていく感覚は素晴らしく気持ちがいい。以前からこの感覚は味わえたが、タイプSでは違和感が減り、まさに思い通りの弧を描いて曲がってくれる。自分の運転が2レベルほど上手くなったかのような感覚と言い換えてもいいだろう。一方、「QUIET」モードを選択すれば、力を増したモーターによって静かでスムースなEV走行が楽しめる。EV走行領域が大幅に広がったのもタイプSの特徴だ。

思い通りの弧を描いて曲がってくれる「SPORT+」モード2

スポーツ性を高めた一方で、乗り心地がよくなったのも嬉しい。決して足が柔らかくなったわけではない。むしろ硬くなっている。しかし荒れた路面を走ったときの上下動は減り、突き上げもスッと一瞬で収めてしまうため、硬めだが快適な乗り味に仕上がっているのだ。

最後の最後に意地を見せ、素晴らしい花道を用意した

最後の最後に意地を見せ、素晴らしい花道を用意した1

3.5LV6ターボの痛快なサウンドを聴きながら、タイプSでワインディングロードを思い切り走るのは最高に楽しかった。NSXの最終進化形としてタイプSは有終の美を飾るに相応しいモデルである。惜しいのは全世界で350台限定、日本では30台のみしかデリバリーされないことだ。2,794万円という価格、予約時に全額現金払込み、1年間は売買不可という厳しい条件にもかかわらず、NSXを扱うディーラーには申し込みが殺到。販売店によっては3台の枠に150件の申し込みがあったという。

最後の最後に意地を見せ、素晴らしい花道を用意した2

なかには値上がりを見込んだ投機目的の人もいるかもしれないが、誰にも注目されることなくひっそりと姿を消していくような最後なんてNSXに相応しくない。トータルとしては残念な結果に終わったが、最後の最後に意地を見せ、タイプSという素晴らしい花道を用意してくれたことをいまは素直に喜びたいと思う。2040年に脱エンジンを掲げているホンダだけにEVになる可能性は高いが、いつの日かまたNSXのような最高にカッコよくて最高にホットなスーパーカーをホンダが出してくれることを期待しよう。

(写真:ホンダ)

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※記事の内容は2021年10月時点の情報で制作しています。

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