寄稿記事(上級者向け)
モータージャーナリスト
島崎七生人しまざきなおと

開発者インタビュー ありそうでなかった形と色「スズキワゴンRスマイル」編

ありそうでなかった形と色「スズキワゴンRスマイル」編

その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第22回は軽自動車のベストセラー、スズキワゴンRシリーズに追加されたスライドドアを持つトールワゴンの「ワゴンRスマイル」。お話を伺ったのはスズキ株式会社 四輪商品第一部 アシスタントCE 課長代理の新美 大輔(にいみ・だいすけ)さん、商品企画本部 四輪デザイン部 四輪先行デザイングループの新居 武仁(あらい・たけひと)さん、商品企画本部 四輪デザイン部 四輪インテリアグループ チームリーダーの邉田 紘一(へんた・こういち)さんの3名です(タイトル写真の後席が新居さん、運転席が新美さん、立っている方が邉田さん)。

ワゴンRらしい使いやすさにスライドドアをプラス

ワゴンRらしい使いやすさにスライドドアをプラス

島崎:お三方とも、タイトル写真の撮影では、車名に相応しい満面のスマイルをくださいましてありがとうございます。お話のほうもよろしくお願いします。早速ですが、ワゴンRスマイル誕生の経緯を教えていただけますか。

新美さん:そもそもこのクルマで何がワゴンRたらしめているのか?というと、使いやすいパッケージング、背の高さ、アイポイントの高さだと思っています。初代ワゴンRが出て来た時、私はまだ学生でしたが、今までにない軽自動車のパッケージングに衝撃を受けました。

島崎:そうでしたか。

新美さん:はい。憧れたクルマでもありました。それに対して今回のワゴンRスマイルもパッケージングにおいてワゴンRを踏襲しています。1,695mmの全高はワゴンRより45mm高いですが、スペーシア(1,785mm)より90mm低いです。あとはユーティリティですが後席は初代から使っているダブルフォールディングと今回はスライドを加えて、荷室を使いやすくしました。これもワゴンRらしさです。

島崎:初代ワゴンRの、ワンタッチでダイブダウンできるリアシートは画期的でしたよね。つい最近、たまたま初代のカタログを見て思い出していました。ところでプラットフォームはどういう成り立ちですか?

新美さん:フロントシートが収まっているあたりのメインフロアはスペーシア、リアシートあたりの構造はワゴンRです。

今や軽自動車の半分にスライドドアが付いている

島崎:近い将来のクルマとの関連があるという訳ではないのですね?

新美さん:ええ、その辺は何とも……。今回のワゴンRスマイルの企画ですが、やはりワゴンRは累計販売台数480万台以上のうち200万人以上の方に今もお乗りいただいています。その方たちに、今後どんなクルマが欲しいですか?とお聞きすると「ワゴンRくらいの高さでスライドドアがついたクルマが欲しい」という方が40%以上いらっしゃった。それは軽自動車を指向されている方の中でも同じくらいです。実は今、軽乗用車の半分くらいはスライドドアで占めています。

島崎:おお、やはりそうですか。

新美さん:ええ。スライドドアの利便性が認知された状態です。で、今お乗りの方に「次に何が欲しいですか?」と伺うと、やはりスライドドアと仰る方が多い。我々もスライドドアはファミリーのものだと思っていたのですが、今はそうではなく、もうパーソナルでも使う、便利だよねと如実に感じていらっしゃる。それと若い方も、スライドドアで育ってきて抵抗がなく、当たり前だよね、と。

島崎:スライドドアが当たり前、ですかぁ。

スタイリッシュでパーソナルな雰囲気を求めた背の高さ

スタイリッシュでパーソナルな雰囲気を求めた背の高さ

新美さん:でも背が高いクルマのバランスは好みじゃない、所帯じみて見える……という声があり、そこから、もっとスタイリッシュでパーソナルな雰囲気のクルマを作りたいと考えたのが今回の企画に至ったところです。

島崎:では、せっかくスライドドアなのに背の低さはネガにはなっていない?

新美さん:そうですね、背が低くなれば走りも安定するといったポジティブな捉え方もありました。弊社にはスペーシアもありますので。

島崎:あ、H社のNに次ぐ人気ぶりの。

新美さん:おかげさまで。

島崎:ところで単純に背を低くした、ルーフを下げたという作り方なのですか?

新居さん:前席の座る位置はスペーシアのものになっています。前方視界、見晴らし感ではスペーシアくらいの高さがいいよ、とのお声がありましたので。一方で後席に関しては、先ほども話がありましたがワゴンRと同じ高さです。これは頭上高を確保しながら、後ろへのスライドもさせたかったからです。

ありそうでなかった形

島崎:デザイン領域のお話も伺えますか?

新居さん:形としては、普遍性、自分色に染められる多様性を言っています。シンプルな造形に温かみを融合させた価値観がテーマです。カラーも含めて4つのスタイルコーディネートを提案していまして、そこが見どころです。

島崎:全体のフォルムは、スペーシアと同様な、ゼロハリバートンのような角丸で堅牢な塊感がありますね。

新居さん:はい。スペーシアは思いきり道具感を出していますが、ワゴンRスマイルは、それよりもう少し普遍的なクルマらしさ、インテリアもそうですが、ちょっと見た事があるような……。

島崎:あ、実は今僕はフィアット500に乗っているのですが、間違いなく、どこかで見たようなインテリアだと思います。

新居さん:ネットを見ていると“ありそうでなかった”とコメントされています。見たような気がするけど具体的にどれかは言えないけど、と。

島崎:キャッチーですね。“ありそうでなかった形”と、必ず編集部が小見出しにしてくれると思います。

新居さん:上手いこと言うなぁ、と。確かに背の高さもそうですが、ヘッドランプやグリルのデザインも、ありそうでなかったと言われています。

12色中の8色が2トーン。色によってさまざまな世界観を表現

島崎:ボディ色も、ありそうだけどなかったコダワリを感じますが。

邉田さん:はい。形は普遍的ですが、4つの世界観を分けるということで、ハスラーやジムニーのように全体で一つの世界観を表現するのではなく、色によってさまざまな世界観を表現しました。とくにコーラルオレンジメタリックとインディゴブルーメタリックの2色は、世界観を作るために設定した新色です。

島崎:すっかりつられて口癖になってしまいましたが、コーラルオレンジはありそうでなかった色味かも知れませんね。

新居さん:アーバンブラウンと組み合わせた2トーンは“お洒落上級者”な感じで、ありそうでなかった色なんですよね。

邉田さん:そうですね。白や黒との1トーンは定番ですが、コーラルオレンジにはあえてブラウンを合わせて、単に可愛いではなく、エレガントで洗練された大人っぽさを意識しました。

島崎:水を差すつもりはありませんが、2トーンはやはり必須ですか?

邉田さん:Aセグ、Bセグ、Cセグのクルマでも一般的になっていますし、今回は力を入れて、12色中の8色を2トーンにしました。

フィアット500がインテリアの参考のひとつにあったのは確か

フィアット500がインテリアの参考のひとつにあったのは確か2

島崎:インテリアもこだわっていますね。ステッチは手縫い感を出すためにワザと崩していたりとか。

邉田さん:やはり本物が一番質感は高いですが、弊社はお値段以上というか、フェイクであっても手縫い風の揺らぎを表現して、質感を高めました。

島崎:不規則な揺らぎ、ですね。ハウスメーカーの家の外壁タイルなどで、凝っているようで、よくよく見ているとリピートがわかったりしますからね。

邉田さん:革シボなどもそうですが、リピートをわからなくするのがポイントです。

島崎:それにしてもインパネカラーパネル、メーターナセル、オフホワイトのステアリングは、オーナーとしては、あ、フィアット500だ!と思いました。既視感、デジャヴどころか、そのものというくらいに……。

新居さん:外国車風の雰囲気を出したいということで、フィアット500が参考のひとつにあったのは確かです。

邉田さん:鉄板を曲げたようなイメージということで、もともとフィアット500も歴史を辿れば元のクルマがありますし、そういったところをモチーフにして、普遍的に、みんなが「クルマってこういう感じだよね」というイメージに仕上げています。

島崎:原点回帰というか、世代、年代を問わず響く味わいってありますね。

新居さん:クルマってこうだよね、って思って貰えるクルマはいいですよね。

島崎:今度、スズライトのエッセンスを引用したりしては?

新居さん:ワゴンRスマイルも、ラパンやハスラーに似ているという人もいらっしゃる。いいとこ取りだ、とか。とくに参考にしていませんが、雰囲気があるのでしょうね。

新美さん:スズキのクルマだよね、とはよく言われますね。

軽自動車のど真ん中にしたい

軽自動車のど真ん中にしたい1

軽自動車のど真ん中にしたい2

島崎:ところでユーザーターゲットを限定している訳ではないのですね。

新美さん:カタログを見ると女性目線が強いのかなぁという感じがしますが、とくにそのようには考えていません。軽自動車のお客様は6対4で女性が多く、ですから4割は男性にも乗って欲しいよね、の思いで作っています。要は軽自動車のど真ん中にしたいよね、と。その中で実は男性比率の高いワゴンR自体をもっと盛り上げたいという思いもあり、ワゴンRスマイルは女性に振ってはいますが、ワゴンR全体としては男性比率を高めたい狙いはあります。あとは色や形にこだわって、こういう感性にマッチしたお洒落な方に乗っていただきたいと考えています。

島崎:直接のライバルはやはりムーヴ・キャンバスですか?

新美さん:直接というつもりはないですが、スライドドアに乗っておられる方、これくらいの全高のクルマに乗っておられる方を考えています。今やムーヴ・キャンバスさんも本家のムーヴを超えて、コンスタントに5000台、6000台と出ていますから。

新居さん:2020年に52%がスライドドア車でしたから、社内的にもスライドドアがもっと欲しいね、という声がありました。

“スライドドアのスマイル” でみんなに笑顔になって欲しい

“スライドドアのスマイル” でみんなに笑顔になって欲しい

島崎:スライドドアの機構は新しいものですか?

新美さん:基本的にスペーシアと同じものです。理由は、安全機能だとかでお高くなっている分、ある種の「芸術品」である軽自動車はできるだけ値段を下げたい。そのために極力部品を共通化しました。ただしワゴンRスマイルでは、スライドドアが閉まるのを待たずにロックができる、パワースライドドア予約ロック機能を付けています。

島崎:最後に車名の“スマイル”はどうして決まったものですか?

新美さん:やはりこのご時世ということもあり、みなさんに笑顔になってほしい。それとデザインも何となく笑顔っぽいということ、も。CMでも“スライドドアのスマイル”と言っていますが定着してくれるといいなと思います。

「やっと出た」初代ワゴンRからのアイディア

「やっと出た」初代ワゴンRからのアイディア

スライドドアのアイデアは、何と初代ワゴンRの企画時にもあったらしい。「やっと出たのか」と初代ワゴンRのデザイナーの中川さんが仰っていたとか。ワゴンRスマイルのスライドドアが、みんなが笑顔になれる世の中への扉になってほしいものだ。

(写真:島崎七生人)

※記事の内容は2021年10月時点の情報で制作しています。

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